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私がこの連載を引き受けたのは、還暦という節目の機会と捉えたからだ。振り返れば、逆境も含めた全てが、感謝という言葉だけでは片付けられない。
私は三男二女の三男として生まれた。これまで表立って話したことはないが、恵まれた家庭環境ではなかった。仕事に熱中していたのは、家に帰りたくなかったという裏の事情もあったのである。
私は39歳の晩婚で、そんな家庭に嫁いでくれた13歳も年下の妻には頭が上がらない。彼女には何度も結婚を思いとどまらせようとしたが「問題ない」と腹が据わっていて、事実彼女が来てから家の中の空気がガラッと変わった。
肝っ玉母さんである。妻は私に、あなたの「大丈夫」は根拠がないと言う。だが長男が大学受験の時のやりとりが笑わせる。私の「大丈夫だよ」に息子は「お父さんの大丈夫は根拠がないって、お母さんが言っているさ」。すると妻が「根拠はないけど、お父さんが大丈夫という時は、まあ大丈夫よ」。
社会人になって35年、私は上司や客先にも恵まれ、苦しい時には、なぜか救いの神が現れてくれた。振り返れば、逆境が私を育ててくれた。当時の課長に、親に感謝しないといけないと言われた。「あなたが喋(しゃべ)ると人が集まってくる。その大らかさは持って生まれたものだよ」と。
父が残した30年古酒は、長男誕生からさらに年月を重ねて50年古酒となった。還暦を迎える私は、5月に二十歳となる息子と一緒に口をつけるのを今から楽しみにしている。