6月は日本各地で梅雨が本格化するシーズンだ。梅雨のシーズンは1カ月以上雨が降り続き、じめじめと蒸し暑い。髪はまとまらず、洗濯物は乾きにくい。何かと不便な季節だが、そもそも梅雨はどのようなメカニズムで起き、どのくらいの量の雨が降るのだろう。本州と沖縄では梅雨に違いがあるのだろうか?沖縄気象台に疑問をぶつけてみた。
(熊谷樹)
「梅雨」とは、春の終わりから夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる気象のことで、梅雨前線によってもたらされる。梅雨前線は5月上旬に沖縄地方で発生し、約3カ月かけてゆっくりと東北地方まで北上。前線が長時間上空に停滞することで雨が続くことになる。
沖縄の梅雨は本州とおよそ1カ月のずれがある。沖縄の梅雨期間は二十四節気の「小満(しょうまん)」と「芒種(ぼうしゅ)」にあたるため、沖縄では梅雨のことを「スーマン(小満)ボースー(芒種)」とも呼ばれる。
■歯切れの悪い表現「みられる」
梅雨の始まりを表す「入り」や、終了を表す「明け」は、全国的なニュースになることも多い。だが実は、気象庁ははっきりと「〇日に梅雨入りした」と宣言していない。梅雨の入り・明けの判断はとても難しく、1990年代半ばには「5月上旬の半ばに梅雨入り」など、幅を持たせて表現する時期もあった。小売業や飲食業などから具体的な日にちが知りたいとの強い要望があり、「〇日に梅雨入りしたとみられる」と含みをもたせつつ絞った表現に変わった。
では、どのように梅雨の入り・明けを判断するのだろうか。
「入り」は、2、3日前からの天気が曇りや雨で、さらに向こう1週間の天気が曇りや雨の日が多くなる見込みーを基準に判断する。
「明け」は梅雨前線が遠ざかり、晴れる日が多くなる時期を総合的に判断して決定する。
発表の時期になると予報官同士で毎日発表を検討し、場合によっては何度も発表を見送ることもあるという。
沖縄気象台の許田盛也予報官によると「『今日から夏』『今日から冬』と言えないように、気象現象を扱う上で、ある日を境に『今日から梅雨』『今日から梅雨明け』と区切りをつけられるものではない。梅雨入り、梅雨明けともに前後2日程度の移り変わりの期間を設け、見通しを含めて“みられる”と発表している」と明かす。
沖縄気象台を含む気象庁では、「平均5日間程度の移り変わり期間があることから、梅雨入り・梅雨明け日の末尾に『…ごろ』とつける」としている。
■2か月も続いた過去最長の梅雨
沖縄地方の梅雨入りで過去最も早かったのは4月20日(1980年)で、最も遅かったのは6月4日(1963年)だ。一方の梅雨明けで最も早かったのは6月8日(2015年)、最も遅かったのは7月10日(2019年)。
梅雨の期間でみると、過去最短は12日間(1963年)、最長は61日間(1962年と1982年)だった。
梅雨の時期に「梅雨入り」「梅雨明け」として発表された日時はあくまで「速報値」だ。気象庁は春から秋にかけての実際の天気の動きを見て、9月に「確定値」を発表する。当然、速報値と確定値には誤差が生じることもあり、2021年は近畿地方で27日、東海地方で28日も遅く修正された。また、東北地方などでは7月中旬以降も曇りや雨が続き、「梅雨明けが特定できない」とされることもある。
■「生みの親」が違うから
県外から沖縄に移住すると、沖縄の梅雨は本州に比べて蒸し暑い、まるでスコールのような大雨が降る、梅雨の晴れ間がくっきり見られる-などと違いを感じる人も多い。実はこれらの体感には裏付けがあり、梅雨前線に関わる高気圧の違いで起こっているという。
そもそも梅雨前線は2つの性質の異なる高気圧の境目に発生し、高気圧同士がぶつかる前線付近では雲が発生しやすく雨が降りやすくなる。
本州付近の梅雨前線は、オホーツク海高気圧がもたらす北東からの冷たく湿った空気と、太平洋高気圧がもたらす南からの暖かく湿った空気の境目に発生する。冷たい雨がしとしとと降り続き、時折「梅雨寒(つゆざむ)」と呼ばれる季節外れの寒さにも見舞われる。
一方、沖縄の梅雨前線は、大陸からもたらされる暖かく乾燥した移動性高気圧と太平洋高気圧の暖かく湿った空気の間で発生する。そのため、移動性高気圧の影響で晴天になる日もあれば、前線に大量に吹き込む南からの暖かく湿った空気により積乱雲が発達し、大雨や集中豪雨が引き起こされることもある。つまり本土と沖縄では梅雨前線の「生みの親」が違うのだ。
6月下旬ごろになると太平洋高気圧が西に張り出し、沖縄地方は梅雨明けを迎える。その時期に梅雨前線に向かって吹く強い南風を沖縄の人は「夏至南風(カーチーベー)」と呼び、この季節風が吹くと沖縄に本格的な夏が到来する。
■家畜が餓死するほどの少雨も
南西諸島では、名瀬(奄美大島)が最も雨が多く、南にいくにつれ雨量は少なくなる。沖縄気象台の許田予報官によると「前線からの距離や停滞のしやすさで降水量は変わる。先島は沖縄本島や奄美地方に比べ、前線の影響を受けにくいといえる」と説明する。
沖縄県内における梅雨時期の最多降水量は、1969年に記録した名護の1445.5ミリ。これは名護の平年降水量(511.8ミリ)の約2.8倍もの雨量だ。
また、最も少なかったのは1971年の宮古島での29.5ミリ。宮古島の平年降水量は417ミリなので、平年のわずか7%しか降らなかったことになる。
梅雨時期の降水量が平年の約2倍の1000ミリ超となった年は1969年(那覇、名護、久米島、南大東島)、2005年(那覇)、2021年(那覇)、2022年(那覇、名護、久米島、宮古島)。
逆に降水量が平年の4分の1以下の100ミリ以下となった年は、1963年(那覇)、1971年(宮古島、石垣島、西表島)、1991年(那覇、名護、南大東島)、2001年(与那国島)。いずれの年も少雨のために水不足が深刻化。給水制限などが行われ、農作物にも被害が出た。
宮古島で過去最少雨量を観測した1971年は、3月から9月まで小雨が続く大干ばつが起きた。気象庁によると、干ばつは特に宮古・八重山地方で著しく、梅雨入り後もほとんど雨は降らず、6月に入ってからは水不足のためにサトウキビだけでなく牧草も立ち枯れ、多くの家畜が餓死したという。飲料水すらなくなった島もあり、本土から水を運んで渇きをしのいだ。農作物もほとんど枯れてしまい、島を離れる人が出る騒ぎにまで発展した島もあったという。
この干ばつを契機に宮古・八重山地方ではダム建設の要望が高まり、国営事業として建設が推進された。
■危機から守る「キキクル」知ってる?
沖縄県の平均年間雨量は2585ミリで全国5位。特に梅雨時期の5、6月と台風シーズンの8、9月に雨が多くなる。
梅雨時期には、梅雨前線付近の積乱雲の発達や、台風の接近、梅雨前線上に低気圧が発生するなどして激しい大雨となることも多い。その影響で、床下・床上浸水や冠水、土砂災害など重大な災害も発生しやすくなる。
【過去にはこんな被害も】土砂崩れ、ビルの窓に2メートルもの大岩が迫る!
大雨による災害から身を守るためにはどのような対策が必要だろうか。沖縄気象台の許田予報官は「地域のハザードマップを確認しておくこと」「警報が発表されたり強い雨が続く場合の情報収集」を挙げる。
これは梅雨時期だけでなく、今後台風シーズンで大雨が発生したときにも必要な心がけだ。特に許田予報官がお勧めするのは、気象庁が公開している防災情報「キキクル」。地域の土砂災害、浸水害、洪水被害の危険度をリアルタイムで確認することができるサービスだ。
「同じ地域でも住んでいる場所によって必要な情報は異なる。ハザードマップの確認とともに、キキクルを活用して安全確保に努めてほしい」と強調する。
大雨に伴い、雷が発生することもある。許田予報官は「県内では何年かに一度、落雷による人身被害も出ている。雷の音がしたら建物や車の中に避難するようにしてほしい」と呼び掛けた。
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