伝統か動物愛護か、糸満ハーレーの「アヒル取り」で分かれる賛否 市には中止求めるメールやはがき840件


この記事を書いた人 Avatar photo 岩切 美穂
今年の糸満ハーレーで行われたアヒル取り競争=6月21日、糸満市の糸満漁港中地区(写真の一部を加工しています)

 糸満ハーレーの中の催し「アヒル取り」について、「動物虐待だ」と中止を求める声が県内外から多数寄せられている。動物保護意識が年々高まる一方で、主催者側は「地域に根付いた伝統だ」と継続に理解を求める。伝統か、動物保護か。地元でも賛否は分かれている。

 アヒル取りはアヒルを海上に放ち捕まえる催し。糸満ハーレーでは少なくとも約60年前には定着しており、人とアヒルの攻防が笑いを誘う催しとして世代を超え親しまれてきた。2012年にはアヒル取りを含む糸満ハーレー全体が市無形民俗文化財に指定された。

 一方、2011年には捕獲する際に首や脚を引っ張る不適切な行為が確認されたとして、県動物愛護管理センターが糸満ハーレー行事委員会に、できるだけ胴体を抱え乱暴に扱わないよう求める改善勧告を行った。18年には生体の使用について再考を促す要請をしている。

 糸満市には4日までに、アヒル取りの中止を求めるメールやはがきが840件寄せられた。ハーレー行事委員会の事務局を担う糸満漁業協同組合にも19年ごろから同様の電話が相次ぎ、今年は200件を超えた。威圧的な内容もあり、業務に支障が出ているという。

 行事委員会は19年以降、アヒル取りについて委員約60人に諮り、賛成多数を受けて実施している。パンフレットに「アヒルとの知恵比べと水泳技術の向上を目指す。アヒルも命ある生き物。首や羽を無理に握らないように」と記し、会場放送でも注意喚起している。

 東恩納博行事委員長は「殺すような残酷な催しではなく、アヒルを傷付けないよう十分配慮している。地域に根付いた文化を一概に否定しないでほしい」と語る。

 開会中の糸満市議会定例会には、市民からおもちゃによる代替を求める陳情もあった。浦崎暁市議は「アヒル取りの悪い印象が広まり、糸満ハーレー全体のイメージダウンにつながる」と中止を主張した。

 糸満ハーレーの運営費として77万円を補助する市は「首を絞めたり脚を引っ張ったりするなどアヒルを苦しめる行為は不適切」との認識を示しつつ、実施については由来を調べ行事委員会と協議する必要があるとした。

 沖縄国際大の宮城邦治名誉教授(動物生態学)は「動物保護意識が高まる中、人間の娯楽のために生き物を使うことをどう考えるかは難しい問題だ。しかし批判があるなら、アヒル取りの由来やハーレーと共に行う意味を、主催者は丁寧に説明する必要があるのではないか」と話した。
 (岩切美穂)

糸満ハーレーの様子

■爬竜船競争と共に伝来 中国で紀元前から実施か

〈用語〉糸満ハーレーのアヒル取り 琉球王国時代に冊封使の窓口だった中国・福建省から爬竜船競争と共に伝わったと考えられている。 糸満市市教育委員会が無形文化財指定の根拠とした白鳥芳郎・秋山一編「沖縄船漕ぎ祭祀の民族学的研究」は、中国各地の文献を基に、アヒル取りが「龍舟祭」と共に中国の広範囲で行われていた歴史に触れ、起源は紀元前までさかのぼる可能性があると記す。 船競争の勝敗を決する目標としてアヒルが放たれ、こぎ手らが水中に飛び込み捕まえた例を紹介。船こぎ、潜水による捕獲の技術の競争や娯楽の意味合いのほか、供物との解釈もあるという。


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