「沖縄に着いた途端にスーツケースが壊れた。どこに捨てればいいの?」
3月上旬、台湾の沖縄旅行ファンを集める巨大SNSグループ「沖縄彭大家族自助錦襄」(7月時点でフォロワーは約57万人)に疑問が寄せられた。
投稿者は台湾からの観光客だ。預けたスーツケースを空港で受け取った直後に破損していることに気づき、その足ですぐ県内で買い替えたという。そこで困ったのが不要になったスーツケースの処分だ。SNSグループへ解決策を求めると、すぐに140を超える書き込みが。その中に「宿泊先のホテルに処分を依頼する」というコメントがあり、投稿者は助言に従いホテルにお願いしてみた。するとホテルの返答は予想外のものだった。
(呉俐君)
■燃えるごみ?燃えないごみ?何ごみ?
旅先でスーツケースが不要になったとき、処分先に困るのは海外客に限らず国内からの旅行客にも起きうる問題だ。
まず、ごみ(一般廃棄物)は家庭から出る「家庭ごみ」と、店舗や公共施設など事業者から出る「事業系ごみ」に分けられ、廃棄物処理法により前者は市区町村が回収や処理についての責任を持っている。
旅行客のスーツケースは家庭ごみ扱いになると考えられ、自治体の指定ごみ袋に入らない大きさの場合は「粗大ごみ」となる。
では、県外から旅行で訪れた人が粗大ごみを捨てることは可能なのか?那覇市の担当者に尋ねてみると次のような回答が返ってきた。
「那覇市の一般廃棄物処理計画において、本市が処理する一般廃棄物は、生活系ごみは本市の家庭から排出されるごみと定めています」
「観光客が出す粗大ごみは本市の家庭から排出されるごみとはならないため、本市で一般廃棄物として処理することはできません」
つまり、観光客が個人でスーツケースを「粗大ごみ」として捨てることは難しい。そこで出てくるのが宿泊先のホテルで処分してもらうという選択肢だ。
那覇空港でスーツケースが破損してSNSグループに解決策を求めた投稿者は、宿泊先のホテルに処分費用を払う意思を伝えた上で処分を頼んだ。だが「処分費用をもらっても(スーツケースは)受け取れない。自国に持ち帰って処分してほしい」と返された。途方に暮れた投稿者は、仕方なく壊れたまま台湾に持ち帰ったという。
そもそも、旅先でスーツケースを処分する必要に迫られるのはどんな状況だろうか。
那覇市内のある大型シティーホテルの総支配人によると、宿泊客がスーツケースを捨てたいケースは主に二つあるという。一つ目はスーツケースのハンドル(持ち手)やキャスターなどの部品が壊れて使えなくなった場合で、二つ目は購入した土産品などで荷物が増えたためもっと大きなスーツケースに買い替えた場合だという。
このホテルでは月に平均10個ものスーツケースを自社負担で産業廃棄物として処分しているという。そして海外客、国内客問わずホテル内に放置する宿泊客もいるという。
ただ、無断で放置するのは論外としても、申し出があった宿泊客には処分にかかる費用を請求すれば済む話ではないのか。ホテル側があえて自社負担するのはなぜか。
前述の総支配人は「何も言わず部屋に捨てていく人が多くいる中で、お金を取ると言えば逆にホテル内のどこかしらに放置する人が増える心配がある」とデメリットを挙げ、「処分費用の徴収にも手間がかかるのでサービスの一環としてこちらが負担せざるを得ない」と頭を抱える。
宿泊客によるスーツケースの廃棄は昔からある問題だといい、解決のためにはホテル任せではなく行政などの介入も必要だと訴えた。
■無料で引き取る空港も
スーツケースの廃棄問題はホテルだけでなく、各地の空港でも悩みの種になっている。その中で、いち早く問題解決に取り組んだのが関西国際空港などを管理する関西エアポート(大阪)だ。
関西エアポートは2018年8月から関西国際空港ターミナルビル内で、旅先で不要になったスーツケースを無料で引き取るサービス「スーツケースリユースサービス」を始めた。関西エアポートの広報担当によると「空港内で放置されるスーツケースの数は増加傾向にあり、空港警備と保安の観点、そして資源の有効活用の観点からも、サービスの導入に至った」という。
サービス開始から2023年4月25日までの約4年半の間で計229個のスーツケースを回収した。広報担当は「スーツケースが放置された場合、不審物ではないかの確認や、拾得物としての対応が必要になる。放置件数が減ったことで現場業務の効率化にもつながった」と成果を語る。
では、回収したスーツケースの処分費用は誰が負担するのかといえば、行政の支援などはなく関西エアポートが負担しているという。広報担当者は「不用品の買い取り業者に引き取ってもらえる物もあるので、産廃処分の削減もできている」と別のメリットも挙げる。
さて、沖縄の玄関口である那覇空港の現状はどうだろうか。
那覇空港ビルディングの担当者によると「(空港内で見つけた持ち主不明のスーツケースは)拾得物として保管し、決められた期限を過ぎた後は処分する」という。
さらに那覇空港では「スーツケースの廃棄は現在月2個程度なのでそれほど問題にはなっていないかと思う」といい、関西エアポートが取り組んでいるような「リユースサービス」については「現時点では議題になったことはない」と語った。
2022年10月以降、コロナの水際対策は大幅に緩和され、那覇空港などと結ぶ海外路線の再開が相次いだ。沖縄県文化観光スポーツ部によると、2021年度に沖縄への海外客数はゼロだったが、22年度は20万100人と急増。国内客も前年度比2.01倍(330万200人増)の657万4500人となった。
沖縄を訪れる観光客が増加がしている中、不要になったスーツケースの廃棄件数が増えることも避けられないだろう。
台湾の沖縄旅行ファンが集うSNSグループ「沖縄彭大家族自助錦襄」の管理者である彭國豪(ペン・クオハオ)さんは、「旅先でスーツケースが破損すれば旅行の質に影響する。その上、新品を購入しても古いスーツケースを捨てる場所が見つからないとなると本当に困る」と話した。そして「昔からある問題なのだから、関係機関が真剣に解決に取り組んでもらいたい」と望んだ。
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