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【深掘り】安保関連3文書の閣議決定から1年 急ピッチになる配備強化、”抑止”が崩れた場合のリスクは語られず


【深掘り】安保関連3文書の閣議決定から1年 急ピッチになる配備強化、”抑止”が崩れた場合のリスクは語られず 日米両政府による沖縄の軍事化に反対する「11・23県民平和大集会」で「命どぅ宝」のプラカードを掲げる参加者=11月23日、那覇市の奥武山公園陸上競技場(大城直也撮影)
この記事を書いた人 琉球新報社

 国家安全保障戦略など新たな安保関連3文書が閣議決定されて16日で1年を迎えた。政府は15日、敵基地攻撃能力(反撃能力)につながるミサイルの配備前倒しを発表。敵基地攻撃能力を巡っては沖縄が有事に標的となる懸念が広がっている。訓練は激化し、平時の負担も増加。この1年、県内や鹿児島県の島しょ部で米軍機や自衛隊機の事故、緊急着陸も立て続いて発生した。

 新たな3文書は「戦後の安全保障政策を大きく転換するもの」(岸田文雄首相)だが、国会審議を経ず、議論は政府・与党内で完結した。内容が県民・国民に公表されたのは閣議決定後だった。

 司令部を地下化、遺体の取り扱い訓練…長期戦への備え

 3文書には、沖縄県内の防衛体制強化に関する記述が多く盛り込まれている。柱の一つは、県内に駐屯する陸上自衛隊第15旅団を師団化することだ。陸自は沖縄を除く全国の師団・旅団を「機動運用」することにし、必要に応じて担当地域を離れて行動できる体制をつくった。

 長く戦い続ける能力(継戦能力)を向上させるため、弾薬庫を島々に分散して配置し、陸自の補給処を沖縄本島に設けることを予定。攻撃を受けることを前提に、那覇駐屯地や与那国駐屯地の重要施設は地下化する。施設整備に向けた予算付けも徐々に始まっている。11月に実施した自衛隊統合演習では戦死した隊員の遺体を取り扱い、仮埋葬や臨時の遺体安置所の設置を訓練した。

自衛隊統合訓練(JX)の一環で、県内で出た負傷隊員を担架に乗せ、C2輸送機で後送する訓練を実施する隊員ら=11月19日、那覇市の航空自衛隊那覇基地

 この1年間、米軍と自衛隊は奄美以南で共同訓練を頻繁に実施した。米軍も地対艦ミサイルを取り扱う予定の「第12海兵沿岸連隊」を発足させるなど、さらに日米の一体化を深める構えだ。防衛省は10月、輸血分野で米軍との相互運用を目指し、有識者検討会を発足させた。

 「標的」となる危険性が増す沖縄 

 訓練や施設の使用が激しくなり、県民の基地負担は増す。県と27市町村でつくる県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協、会長・玉城デニー知事)が11月に政府へ提出した要請書は、米軍基地の集中に加え、自衛隊の増強が急激に進んでいることが「かえって地域の緊張を高め、不測の事態が生ずる」という懸念を記した。

三宅伸吾防衛大臣政務官(左から2人目)に要請書を手渡す玉城デニー知事(同3人目)ら県軍用地転用促進・基地問題協議会のメンバー=11月17日、防衛省

 有事となった場合の危険性についても、敵基地攻撃能力のある長射程ミサイルなどが配備されることで「沖縄が攻撃目標となることは決してあってはならない」と指摘して反対の姿勢を鮮明にした。

 これに対し、防衛省関係者は「長射程でも短くても狙われる時は狙われる。そうなる前に、その意思をくじくことが重要だ」と語る。

 政府は防衛力の強化が「日本に対する攻撃の可能性を低下させる」(木原稔防衛相)と説明するが、抑止が崩れた場合のリスクについては正面から語っていない。

 玉城県政与党の一人は「こんな重要なことを(国民で)議論せず、閣議決定したからとがんがん進める。地域の声はどうするのか」と憤る。12式地対艦ミサイルの能力向上型の配備前倒しについて「沖縄に配備するのは明白なのに、きちんと説明しないままだ。こんなやり方で理解は得られない。いつか県民、国民の不満は爆発する」と語った。

(明真南斗、佐野真慈)