政府は安全保障上、必要性が高い空港や港湾など民間インフラ施設を「特定利用空港・港湾(特定重要拠点)」に指定し、自衛隊や海上保安庁などのニーズに基づいて整備する事業を2024年度から導入する。対象施設の候補地は全国に32カ所。うち県内は、全国で最も多い12カ所が候補地に挙がっている。一方、予算措置や米軍などの使用拡大、有事に攻撃対象となる可能性も指摘され、不安を抱えたままの船出となる。
政府は空港や港湾を管理している自治体が事業を受け入れた場合、整備に向けた予算を優先的に配分することとしている。県内の離島市町村からは「国家の意思としてインフラ整備をしたいというのはまさに千載一遇のチャンス」(糸数健一与那国町長)などと、事業を前向きに捉える声がある。
国は、県に対し、拠点に指定された施設の自衛隊などによる利用は「年に数回」だと説明している。だが、最近の日米共同訓練で新石垣空港や中城湾港が使われるなど、事業を先取り動きがあった。県幹部は「自衛隊が使いたいときに使えるようになる」と述べ、利用に制限がなくなることを示唆した。
同事業に基づく整備費用は、沖縄関係予算として支出されることが固まっている。1972年の沖縄の日本復帰以来、沖縄の振興発展を目的に措置され、防衛関係費用とは明確に区別されてきた同予算の「防衛色」が強まることが懸念されている。限られた沖縄関係予算を食い合い、拠点に指定された施設の整備が優先されてその他の生活基盤の整備に影響が出る恐れもある。
政府は、地元に対し、指定した施設について「米軍の使用は想定していない」と説明するが、上川陽子外相は国会で「日米地位協定第5条に基づいて行われることになる」と答弁し、国の説明は一貫していない。県関係者は「県としては(米軍の使用の)自粛は引き続き求めるが、拒否ができない。日米地位協定がある以上、米軍が使う可能性は拭えない」との見解を示した。
昨年12月15日、県は同事業の受け入れについて国に正式に回答した。「不明な点が多く残されている」という理由から、24年度の予算要望措置を見送った。
一方で、中山義隆石垣市長は昨年12月19日、防衛省や内閣府を訪ね、同事業を念頭に石垣港や新石垣空港の機能強化を要請した。
県と一部離島自治体の間で温度差も生じる中、政府との協議は今後も続いていく。
(與那原采恵)