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沖縄はグローバルサウスとも連帯を 世界の識者から署名を集めた乗松さんに聞く(1/3ページ)


沖縄はグローバルサウスとも連帯を 世界の識者から署名を集めた乗松さんに聞く(1/3ページ) 乗松聡子氏(2018年撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 新垣 毅

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設について、米映画監督オリバー・ストーン氏をはじめとする世界各国の識者ら400人以上が今月、建設に反対し中止を求める声明を連名で発表した。同市大浦湾側での工事設計変更の承認を、日本政府が代執行したことを受け「米日の事実上の軍事植民地とされている沖縄の、さらなる軍事化を拒否する沖縄の人々への支持」を表明した。署名を集めた中心メンバーの一人、乗松聡子さん(「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)に、声明の狙いなどについて書面でインタビューした。

(新垣毅)

 ―今回、なぜ、このような声明を集めることになったのか、理由と経緯を教えてほしい。

 今回の行動は主に海外で沖縄に関心を持つ学者や翻訳家でつくる「Okinawa Interest Group」(沖縄関心グループ)から生まれた。声明にもあるように、2014年初頭に出した、103人の世界の識者による国際声明から10年、改めて辺野古基地に反対する沖縄の人々への支持を表明する声明だ。沖縄への支持というだけではなく、加害国の米国と日本の市民として「正しいことをする」、つまり政府を動かして加害をやめる責任を示す必要があると思った。現時点で署名は1500ほど集まっているが、その5割以上が米国、3割ほどは日本の市民による署名だ。

 直接のきっかけは年末の高裁判決を受けての日本政府による工法変更「代執行」。沖縄の土地、海、生物、資源についての決定を、沖縄が言うことを聞かないから日本国が代わって「執行」するという暴挙であり、「琉球処分」と言われる1870年代の琉球強制併合、古くは薩摩による琉球侵攻をほうふつとさせる出来事だ。玉城知事が10日の着工を受け「沖縄の苦難の歴史に一層の苦難を加える辺野古基地建設」と訴えたように、この問題は歴史を知らずには語ることはできず、本質は植民地主義にある。いま連日報道されているパレスチナ・ガザの状況と同様だ。今回の声明はここを強調したく、海外の人にも伝わるように歴史の説明から入った。

大浦湾側の資材置き場(ヤード)設置予定地で、石材を投下する重機=1月10日、名護市(小型無人機で大城直也撮影)

 この「代執行」という露骨な植民地主義を許せないという気持ちから「沖縄関心グループ」の仲間たちと一緒に声明を起草した。沖縄文学の翻訳家であるスティーブ・ラブソンさん、沖縄の海を熟知している海洋生物学者のキャサリン・ミュージックさん、名古屋で平和活動をしている文学研究者のジョセフ・エサシエさん、琉球新報の英訳の仕事もしていた翻訳家のエリン・ジョーンズさん、沖縄に住む政治学者のダグラス・ラミスさんらと議論しながら文案をまとめた。

 2013年にオリバー・ストーン監督と共に来沖した歴史家のピーター・カズニックさん、沖縄についての海外発信を評価され2008年に「池宮城秀意記念賞」を受賞した「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」の創立者であるマーク・セルダンさんとガバン・マコーマックさん、「天皇の逝く国で」で知られるノーマ・フィールドさんなど皆が著名な署名者を集め、署名の拡散に協力した。今回の行動を「なぜ」行ったかというより、行う以外の選択肢はなく、体が勝手に動いたというような状況だった。仲間たちも同様だったと思う。

 ―声明文には沖縄について「日米による軍事植民地支配」という言葉を使っている。沖縄で起きている異常さは、海外からはどのように映っているか。

 国際法学者のリチャード・フォーク氏は沖縄を「20世紀後半に起こった世界の脱植民地化の流れ」に含まれなかった植民地の一つであると言っている。沖縄が植民地であることは、日本によって琉球王国が強制併合され、その言語、文化、伝統、尊厳、資源、自己決定権を奪われてきた歴史からも、教科書的な植民地支配であり、議論の余地はない。同様に植民地支配され同化させられたアイヌ民族、大日本帝国により侵略・植民地支配された朝鮮半島、中国、東南アジア諸国などの人々から見ても、また大航海時代から西洋列強に侵略・支配されてきたアフリカ、アジア、南北アメリカの先住民族から見てもこれは明白だ。

沖縄を訪れ、米軍基地や名護市辺野古などを巡った米映画監督のオリバー・ストーン監督(中央)と歴史家のピーター・カズニック教授(右)=2013年8月16日、那覇市天久

 沖縄は、このように古典的な植民地主義の対象となってきただけでなく、そこから脱植民地化されることがないまま、さらに現代的植民地主義が重なっていったとみることができる。第2次世界大戦で大日本帝国が滅亡すると同時に米国に占領され、冷戦期の「熱戦」である朝鮮戦争やベトナム戦争の基地として沖縄は使用された。「復帰」後は日米安保体制に組み込まれ、冷戦後は米国の単独世界覇権を可能にする「基地帝国」(チャルマーズ・ジョンソン)の一端を担わされてきた。

 その米国の一極覇権がいま崩れてきており、米国が率いるNATOに加盟する欧米諸国および日本、韓国、オーストラリアなどの「西側連合」に対抗するBRICS勢力(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)を中心とするグローバルサウス勢力が台頭してきている。西側で「国際社会」と言う時は世界人口80億のうちの10億程度しか占めていない「米国が率いる西側連合」のことしか指していない。世界の残りの70億、つまりグローバルサウス諸国は「もう西側諸国による植民地主義、資源や主権の強奪は許さない」という脱植民地主義的価値観で団結を高め、脱ドル化も進んでいる。

 沖縄はこの世界の新たな脱植民地化の動きに乗れるのではないかと思う。米日の軍事支配から離脱し、グローバルサウス諸国と連帯し、自己決定権を取り戻していくことは可能ということだ。そのためには世界が沖縄を知る必要があるし、沖縄も世界ともっとつながる必要がある。故大田昌秀元知事は「壁の向こうに友人を作る」大事さを強調していた。沖縄は西側の言う「国際社会」ではなく、真の世界の「万国津梁」となれるのだ。

 今回の声明では「主権国家に埋もれてしまっている」(リチャード・フォーク)沖縄のような土地からの署名を意識し、署名には「国/地域」欄の記入をお願いしたが、署名者の中には「琉球」「違法に占拠されているハワイ」「米国に支配されているポリネシア」と明記している人たちがいた。沖縄の闘いを世界規模の脱植民地の闘いの中で捉えている人たちが確実に集まってきているということだ。