―10年前も辺野古埋め立てに反対する声明を出しているが、前回との違いは。
今回の声明は「植民地主義」を前面に出している。前回は沖縄の基地反対の民意に重点を置いていた。「民意」に反した決定を仲井真弘多知事が行ったから、この決定は沖縄の民意を表したものではないということを世界に伝えたかった。今回ももちろん沖縄の過半数が「辺野古」に反対している事実は大前提として私たちの発信の背景にあるが、それでは辺野古基地に反対していない人たちと対立するのかといえば、それも違う。
自己決定権を奪われたい人、自分の土地を他国基地のために取られたい人など元来いるはずがない。植民地支配の中で基地を受け入れざるを得なくなった人、利権に絡めとられた人も、植民地支配が背景にあるからこそ、そのような状況に追い込まれたのだ。朝鮮の植民地支配の中で生まれた、支配者におもねる「親日派」と似た構造がある。私たち加害国側の人間としては、加害自体をやめることがまず先であって、支配され分断されている人たちの「民意」を事細かく調べることより、自らの価値観を問う方が先と思っている。間違っているものは間違っているのだ。
人間だけではない。大浦湾に生息する5千以上の生物群は人間の民意など関係ないし声を出すこともできない。起草者の一人のジョセフ・エサシエ氏は、大浦湾を埋め立てることは「ジェノサイド」に比する「エコサイド」(大量環境破壊行為)であると言っている。
「植民地主義」と関連して、今回の声明では「琉球列島の人々は、欧米列強に植民地支配された世界中の多くの先住民族と同様に、強制的に日本に同化させられ、言語、名前、伝統、そして主権と自治を持つ民族としての尊厳を奪われた」と言っている。沖縄の人々が「先住民族」かどうかについては、アイデンティティーとしては沖縄の中でも議論の最中であり、外部の人間が押し付けることではないと思う。しかし世界の先住民族たちが被ってきた植民地支配の被害と同様の被害を琉球・沖縄の人々が受けていることは厳然たる事実だ。だからこのような表現にした。
前回の声明では、米国の独立宣言を引用したが、今にしてみると当時の認識は甘かったと感じる。米国も、私の住むカナダも、欧州人が先住民族をだまし、殺し、土地を奪って作ったセトラー・コロニアル国家だ。この歴史に対する真相究明や償いもまだまだ長い道のりの途上にある段階で、米国やカナダの「民主主義」を賛美するような偽善はもう行いたくないという気持ちがある。
そういうこともあって今回は署名者の中でハイライトした人も、いわゆる西側世界の人たちだけでなく、グローバルサウスの人たちを意識した。
署名者の中には、ノーベル平和賞受賞者のマイレッド・マグワイア氏、アカデミー賞受賞映画監督のオリバー・ストーン氏、ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストのクリス・ヘッジズ氏、歴史家のピーター・カズニック氏、カナダの作家ジョイ・コガワ氏、「社会的責任を担う医師」(PSR)創設者のヘレン・カルディコット氏、「パレスチナ生物多様性と持続可能性のための研究所」ディレクターのマジン・クムシア氏、国際平和ビューロー共同代表のコラソン・ファブロス氏、「フォーカス・オン・グローバルサウス」共同代表のウォルデン・ベロ氏がいる。
10年前は辺野古基地の問題に特化していた。今回もきっかけとしては辺野古基地の「代執行」をきっかけに出した声明だが、辺野古を超えて琉球列島全体の軍事植民地支配をやめよ、その第一歩は辺野古基地の中止であると訴えている。宛先も、前回は海外からの沖縄の人々への支持表明という位置づけだったが今回は日米政府に加え、両国の市民に宛てている。特に「代執行」について「植民地的無関心」を装う県外の大多数の日本人、沖縄で自国政府が何をしているか知らない大多数の米国人に対して語りかけたいという思いがあった。
声明は、書いた私たち自身に突き付けた声明でもあるのだ。一緒に書いた仲間は、私以外は米国人である。私は全員の代弁はできないが、カナダに住む日本人である私は少なくともそういう思いで起草に加わった。
―今回、署名を集めて、どのように感じたか。
既にかなり答えたが、メディアの反応について追加したい。沖縄のメディアはもちろん前回同様取り上げてくれたが、日本メディアの反応については明らかに10年前とは異なると感じた。10年前は、NHKはプライムタイムの全国放送で流し、NHK国際放送では特集を組み、TBS「サンデーモーニング」も取り上げ、リベラル系の全国紙、ブロック紙も独自記事を出したが、今回はすぐ反応したのは共同通信だけだった。朝日新聞が遅れて報道した。
もちろん共同通信が今回も素早く取り上げてくれたおかげで全国の地方紙を中心に行き渡ったことは意義が大きいと思うが、全体的に日本メディアの関心は下がっており「辺野古問題は終わっている」と思われている傾向があるのかと思った。沖縄の基地増強の口実とされている「中国脅威視」「反中国キャンペーン」がここ数年、日本のマスコミでもエスカレートしていることが背景にあるだろう。日本メディアの関心低下は悔しいことだし、これこそが声明で指摘している「植民地的無関心」であると思っている。
米国のメディアに至っては10年前も今回も、ほとんど取り上げなかったが、今回はAP通信が1月10日「日本政府が工事を再開した」という記事の中ではあるとはいえ、私たちの声明について取り上げたのは特記に値する。AP通信のおかげで米国、カナダ、オーストラリアなどの媒体に幅広く取り上げられた。
また10年前と比べたらネットにおける代替メディアの発達も目覚ましい。ピュリッツァー賞受賞者のジャーナリスト、クリス・ヘッジズ氏が署名したことがきっかけで、自身のネット番組で今度沖縄のゲストを呼んで取り上げることになっており、今回の成果の一つだ。政府当局や軍産複合体とつながっている主要メディアに比べたら、代替メディアはその情報や分析においても先を行くことが多い。イスラエルによるガザに対する「ジェノサイド」についてもこの3カ月、代替メディアの発信に主要メディアが後追いしていくような状況が起きている。
今回、22年に沖縄を訪れ、もうすぐドキュメンタリー映画を発表するアビー・マーティン氏をはじめ「グレイゾーン」のマックス・ブルメンソール氏など米国の気鋭の独立ジャーナリストたちの署名が目立ったことも希望が持てる。