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万国津梁の体現へ、重要な沖縄県の「地域外交」 世界の識者から署名を集めた乗松さんに聞く(3/3ページ)


万国津梁の体現へ、重要な沖縄県の「地域外交」 世界の識者から署名を集めた乗松さんに聞く(3/3ページ) 乗松聡子氏(2018年撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 新垣 毅

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 ―辺野古新基地問題を、日本全国や国際世論に訴えていく上で、何が課題と考えるか。

 今回は、グーグルという西側の大手ITプラットフォームを使ったために、署名も西側諸国に偏るという限界も抱えていたことは課題だった。例えば中国の人たちはVPNを使わないとグーグルのサイトを見ることもできない。また米国から一方的制裁を受けているイランの人たちはネット環境を整えることさえ難しいといった事情がある。もちろんインターネットを使えるという環境を持つこと自体が特権だろう。朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)の人たちはインターネットを見ることもできない。「世界のマジョリティーであるグローバルサウスに呼びかける」と言っても、結局西側の特権的枠組みの中で動いてしまったと思う。ここは反省すべき点だ。

 また根本問題として、繰り返すが「西側問題」がある。日本を含む西側の主要メディアは、米国が敵対視している国をとにかく悪魔視し、そのためならソースがはっきりしない情報でも、明らかなうそでも平気で流すという傾向が近年エスカレートしている。辺野古を含む米軍基地問題にしても、中国や朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)の「脅威」や「挑発」ばかりを語り、その背景にはまさしく米国と同盟国による「脅威」や「挑発」があることを一切語ろうとしない。イスラエルの学者、イラン・パペ氏が西側で流れるパレスチナ情報に「脱歴史化、脱文脈化」が広範囲で起こっていると指摘しているのと同様だ。

 これは米国や西側の典型的なレトリックで、自分たちがやっていること、やろうとしていることを敵対視している相手がやっていることにして、自分たちがやるときは「抑止」「牽制」といった言葉を使い、相手がやるときはどんなに力関係が不均衡でも「威嚇」「挑発」といった言葉を使い情報の受け取り手の心理を操作する。それによって米国が冷戦後の一極支配の中で敵対視してきたロシア、中国、DPRK、イラン、ベネズエラ、リビア、シリアは「独裁者が支配し人権が蹂躙されている国々」としての強い印象がつけられてしまっている。

沖縄本島北部の北部訓練場で実施された「ジャングル戦闘訓練」で、米軍機が離着陸する地点の安全を確保する海兵隊員(共同通信)

 このメディアのプロパガンダの壁を打ち破るのは非常に難しく、声を上げるだけで「陰謀論者」や「敵国のスパイ」であるかのように即レッテルを貼られてしまうような、あたかもマッカーシズムの再来のような傾向がメディアやネットの中にもある。これに対抗するには、上記に書いたような優秀な代替メディアや独立ジャーナリストたちの事実に基づいた発信を届けていくしかないのではないかと思う。

 日本の人には、日本語でしか情報収集をしないこと、日本ベースのメディアからしか情報を取らないことがいかに偏っていることなのかを伝えたいと思う。今は自動翻訳も発達しているし、日本メディアだけでなく、諸外国のメディアや代替メディアの情報も取り入れてメディアリテラシーを高めることが政府や既存媒体のうそを見破り戦争を防ぐことにつながる。

 このメディアの壁を打ち破らないことには、基地を作るなという声も、「中国や〝北朝鮮〟の脅威がある」という言説でたちどころに消されてしまう。客観的にみれば東アジアを含め全世界で一番大きな軍事的脅威になっているのは米国であることは紛れもない事実だ。そこが見えずに、米国性善説のような信仰に近い感覚が西側にはびこってしまっている現実を変えなければいけないと思っている。

 ―今後、訴えていきたいことは。

 これまでのまとめになるが、日本人は、自分たちが現在進行系の沖縄に対する植民地主義の加害者であるということを自覚し、辺野古をはじめ琉球列島の要塞化を止めること。プロパガンダに負けず、米国という帝国を直視すること。米国は、世界中で軍事覇権を行使し、政権転覆、経済制裁で言うことをきかない国々の主権と自己決定権を奪い続けている。

国連人権理事会の会合で、「平和が脅かされ、意思決定への平等な参加が阻害されている沖縄の状況を世界中から関心を持って見てほしい」と訴える玉城デニー知事=2023年9月18日(日本時間同19日)、スイス・ジュネーブの国連欧州本部

 この米国に従属したままの日本ではアジアの平和など築けない。日本が米国から軍事的外交的に独立し、アジアの責任ある一員としての役割を果たし、朝鮮戦争を終わらせ、中国との戦争を回避する方向性を持つことは不可欠だ。沖縄は日米の軍事支配から離脱し、アジアと、世界とつながり、「万国津梁」を体現していく。そのためにもいま沖縄県が行っている「地域外交」はとても重要だ。いま見えてきている希望として、米国および西側連合の覇権が崩れてきており、それに対抗する形でBRICSやグローバスサウスの国々が台頭し大きな地殻変動が起きている。これこそが今世界規模の脱植民地化への動きであり、沖縄はその動きに乗ることができる。

 世界のマジョリティであるグローバルサウスとの連帯により、沖縄を世界で可視化して自己決定権を取り戻し、繁栄も築く方向性に持っていくことができる。

(了)

 【世界の識者から集まったコメント例】

 アン・ライトさん(元米国陸軍大佐・元外交官) 米軍が大浦湾を米軍滑走路のために破壊するのはひどいことだ! 沖縄には、日本が〝本土〟に持つことを拒否している危険な米軍基地がたくさん散りばめられている。アメリカは複数の軍事基地を通して沖縄を「占領」し続けている。 アメリカの沖縄占領は終わらせなければならない―今すぐに!

 ティム・ショロックさん(ジャーナリスト) 79年にわたる米軍による沖縄占領はもうたくさんだ!

 スティーブン・リーパーさん(ピース・カルチャー・ビレッジ代表、元広島平和文化センター理事長) この手紙は現在の状況を丁寧に説明し、是正を求めるものだ。世界平和と協力という明白で緊急かつ存続的な必要性に直面しながら、あなた方の時代遅れの超軍国主義の残酷な愚かさに対する私の怒りを表現しきれてはいないが。(※「あなた方」は米日政府を指す)

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