prime

【記者コラム】海中でタツと出会う 金良孝矢(暮らし報道グループ)


【記者コラム】海中でタツと出会う 金良孝矢(暮らし報道グループ) 一面にジュゴンが食べる海草藻場が広がっていた土砂投入区域=2013年4月、名護市辺野古の水深約1メートル(撮影・花城太、金良孝矢)
この記事を書いた人 Avatar photo 金良 孝矢

 辰年の2024年になり、はや2月。想像上の生き物である辰に出くわしたことはないが、11年前に海中で1匹のタツノオトシゴと出合った。目を凝らさないと気付かないほどの小ささで、子どもだったかもしれない。ジュゴンが好む海草藻場に紛れ、ふわふわと漂っていた。

 場所は、米軍普天間飛行場の移設先である名護市辺野古沖の浅瀬だ。その周辺一帯はもう、新基地建設工事で埋め立てられてしまった。自然の豊かさを伝えてくれたタツノオトシゴがその後、どうなったのか誰も分からない。

 今年1月、その北側にある大浦湾の埋め立て工事が始まった。工事に向けた代執行訴訟の判決を昨年末、法廷で見届けた。判決は、埋め立て事業の必要性から公益性などを判断し、国の主張を全面的に認めた。生物多様性を誇る大浦湾が埋め立てられ、生物や環境にどれほどの影響を与えるのか懸念が残る。

 国の元職員で指定代理人も務めるなどした政策研究大学院大学の福井秀夫教授によると、人材も資金も豊富な国は無理筋な主張でも「勝つべくして勝つ」という。都合の悪い証拠も隠す国を裁判所が勝たせる行政訴訟のハードルは高い。

 国や裁判所は、国策で揺れながらも新基地建設反対の民意を示すなどしてきた県民の姿を直視しているだろうか。地元紙の記者としては、小さなタツノオトシゴの目線を失わずに取材を続けたい。