那覇市歴史博物館は3~15日、琉球国王が即位儀礼など重要な儀式の際に着用した「玉冠(ぎょくかん)」を同館で展示する。2日、報道陣向けにケースを外した玉冠が公開された。展示された玉冠は2006年に国宝に指定された。戦時中に流出し、今年3月に沖縄県に返還された琉球国王の肖像画「御後絵(おごえ)」にも描かれている。同館の山田葉子学芸員は「諦めていた御後絵が返還され、関心も高まっている。玉冠を見て歴史に思いはせてほしい」と来場を呼び掛けた。
現存が確認されている琉球国王の冠は世界中でこの1点のみ。18~19世紀に制作されたとみられるが、どの国王が着用したかは不明だ。
表面には12本の金筋に、金や銀、水晶、珊瑚(さんご)、琥珀(こはく)、瑪瑙(めのう)、軟玉(なんぎょく)の計7種類の玉計288個が装飾されている。
全長約31センチの金簪(きんかんざし)には王権を象徴する2頭の龍が精巧な技術で刻まれている。黒い絹の内部はつる状の植物籐(とう)を編み込んで形作られているため、総重量605グラムと見た目より軽いという。
山田学芸員によると、御後絵に描かれている玉冠と展示品とは同形だが、同じものかは不明だ。そのため「御後絵の修復作業が終われば、玉冠と見比べて調査してみたい」と語った。
国宝の展示期間は、文化庁の通達により年間計30日と定められており、同館では5月の大型連休時期と11月の「文化の日」に公開している。5月は王妃が着用していた「黄色地衣装」、11月は琉球国王の正装「唐衣装」が並んで展示される。
琉球文化研究者の鎌倉芳太郎が、尚家の屋敷である中城御殿(なかぐしくうどぅん)に保存されていた玉冠を写真に残しており、山田学芸員は「写真と見比べると、展示の玉冠より幅が広いので別物のようだ。その他の資料を見る限り、玉冠は2、3点あったと考えられる」と指摘する。
中城御殿にあった玉冠は沖縄戦後、人為的に持ち去られたとみられている。関係者の間では、御後絵同様に戦利品として米国に持ち去られたと考えられているため、米連邦捜査局(FBI)の盗難美術品ファイルに流出文化財として登録申請されている。
御後絵は戦後79年の時を経て沖縄に戻ってきた。さらなる朗報を待つ山田学芸員は「中城御殿にあった玉冠も沖縄に戻ってくるかもしれない。そう期待しています」と語った。(嘉陽拓也)