神戸市東灘区岡本の住宅街で、沖縄関連の本だけを扱う古書店「まめ書房」が開店10年目を迎えた。
新刊を含む約1000冊とともに民具や陶器も並ぶ。「沖縄を知りたい人の道を照らし続けたい」。脱サラした金澤伸昭さん(57)と妻の由紀子さん(57)が、ゆったりと沖縄を感じられる時間を演出する。
大阪出身の伸昭さんは小学生の頃に聞いた子守歌「耳切り坊主」が沖縄の入り口だった。泣く子は耳を切るという怖い歌詞を明るく歌うのが心に残った。1990年代には民謡の世界に触れ、沖縄を旅するようになった。
家電メーカーでデザインを担当していた。しかし「売れればよい」という風潮で、客との距離が遠のくのを感じた。好きな沖縄と本屋を結びつけ「来れば楽しくなる。そんな本屋の体験をデザインしよう」と独立を決心。由紀子さんも背中を押してくれた。
開店準備で訪れた沖縄で、宜野湾市の古書店主天久斉さんに偶然出会い、経営のノウハウなど助言を得た。伸昭さんは「教えてもらったから今がある」と感謝する。
2015年8月1日開店。マンションの一室を木のぬくもりを感じられるようにリフォームした。作者から直接仕入れたクバ製の民具や石獅子が沖縄の雰囲気を醸し出す。さんぴん茶でもてなし、ゆんたくする。
高齢者や学生、親子連れ、関西に住む県系の若者など客層はさまざま。社会学者の岸政彦さんやジャーナリスト安田浩一さんら沖縄本の作者も立ち寄る。琉球舞踊の本は数年売れなかったが「意地で置き続けた」と伸昭さん。今は舞踊を習う人たちが買いに来る。
沖縄を差別する言葉がネット上を飛び交うのが悲しいという。「沖縄戦も基地問題も本当のことを知らない。知ってもらうため、ここで店をする意味がある」と由紀子さん。
経営は決して楽ではないが、夫婦で前を向く。「沖縄に興味を持ったお客さんの2歩目、3歩目のお手伝いを続けたい」
(宮沢之祐)