『奔流の彼方へ 戦後70年沖縄秘史』 CICの実態描き警鐘放つ


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『奔流の彼方へ 戦後70年沖縄秘史』島袋貞治著、琉球新報社編 琉球新報社・1080円

 一読するや、壮大な長編歴史劇映画を見終わったときのように、しばし興奮が冷めやらない。米軍沖縄統治の秘密のベールが次々とはがれていく。

 語ることが到底許されなかった当事者から聞き出せた著者が、国家・権力者はいかなる手段を用いて、その体制維持を図っていこうとするかを暴いている。よくぞ実名写真入りで証言してくれたものだ。秘密のベールとは、沖縄、日本での米陸軍対敵諜報隊(CIC)の暗躍のことだ。その証言者は、ハワイ移民の子弟の「帰米2世」「帰日2世」「純2世」たちである。

 戦後のCIC活動に至る前、「帰米2世」は「通訳米兵」として戦場となる故郷沖縄へ向かい、皇民化された「帰日2世」は学徒兵として戦場動員され、兄弟が敵味方に分かれた形で凄惨(せいさん)な沖縄戦をそれぞれが体験する。久米島の住民虐殺事件にも「米兵」の立場で、虐殺の張本人鹿山兵曹長に声をかけられ、その言葉におののいたという証言は事件の本質を知る上で重要だ。彼らは戦後、朝鮮戦争での諜報活動に従事せざるを得ず、戦争に人生を狂わされ続ける。

 米国にとどまった「純2世」は、「ソ連帰還兵」の思想調査活動に重用された。彼らは米軍統治下沖縄での諜報活動にも従事している。1950年~60年代、沖縄・本土を行き来した人、軍作業員や人民党演説会場での聴衆は、誰もが常にCICに見張られている恐怖感におののいていた。その元CICが事細かに証言しているので、歴史の舞台裏が明るみに出た。

 だが、本書は単なる「戦後秘史」ではなく、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)、通信傍受法、特定秘密保護法はCICの活動が形を変え、日本は今や「CIC国家」だ、と警鐘を乱打していると読める。世界各地で諜報活動を行ってきた陸軍中野学校出身者が、戦後いち早く米国の諜報員として朝鮮戦争前夜の半島で活動した後、沖縄で「日本復帰」直前までCICの下請けをやっていたとの証言を、評者は得ている。「軍作業」の職種としてCICの下請け役もあった。沖縄戦後史の闇はいまなお深い。
 (石原昌家・沖縄国際大学名誉教授)

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 しまぶくろ・さだはる 1977年、那覇市出身。琉球大学卒。2001年、琉球新報社入社。16年4月からニュース編成センター整理グループに所属。