辺野古新基地 県民投票巡り意見二分 県政与党内、慎重論強く


この記事を書いた人 Avatar photo 宮里 努
沖縄県庁

 沖縄県の翁長雄志知事を支える県議会与党会派は、米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古への新基地建設に対し、反対の民意を示す手段として「県民投票」の実施を巡る議論を続けてきた。政府が辺野古海域への土砂投入に向けた作業を進める中で、革新政党の間では「撤回のタイミングを逸してしまう」など県民投票を困難視する意見が大勢を占めている。一方で一部会派や市民団体は、署名活動や知事への要請など独自に動き始めている。実施判断のタイムリミットを迎えつつある「県民投票」を巡る論点をまとめた。

 金秀グループの呉屋守将会長は「反対の民意が示されることで埋め立て承認撤回の公益性の根拠になる」と語り、辺野古新基地建設の是非を問う県民投票の実施を訴えてきた。

 名護市長選の敗北の責任を取る形でオール沖縄代表会議の共同代表を辞任した呉屋氏だが、オール沖縄会議の中で県民投票に向けた議論が進まないことにも不満を募らせていた。呉屋氏は「負けるリスクを恐れて県民の考えを聞かないとしたら政治は信頼をなくす。県民投票を経ない撤回こそリスクだ」と語る。

 県民投票の実施には、県議会で条例を制定する必要がある。社民・社大・結、共産、会派おきなわの県政与党3会派は3月末までに結論を出すことを目指し、県民投票の可否について議論してきた。だが、年度内に意見の集約が図られることはなく、与党としての条例提案は事実上の見送りの形となった。

 これを受け、3会派の中で唯一、県民投票を積極的に主張してきた会派おきなわは、翁長知事の発議による条例制定を求めていく方針を決めた。

 埋め立て承認を撤回した後の裁判で判断の公益性が問われることを想定し、同会派の議員は「裁判所を納得させるには県民投票しかない」と語る。

 今月3日にオール沖縄会議からの脱会を表明したかりゆしグループも、県民投票を巡る見解の相違を脱会の理由とした。かりゆしの當山智士社長は「県民投票が手順として必要だ。知事にイニシアチブをとってほしい」と語った。

 有権者の中からは、県内の学者や学生でつくる「辺野古県民投票を考える会」が、県民の主体的な運動として県民投票に賛同する署名集めを始める。仮に有権者が直接条例制定を請求する場合は、2カ月以内に有権者全体の50分の1以上の署名を集めなければならない。

 「考える会」で中心となって活動する元山仁士郎氏は有権者の10分の1の署名確保を目指して、活動に必要な態勢づくりを急ぐ。呉屋会長も賛同し、条例制定を求める請求代表者に名を連ねる。

 国の埋め立て工事を止める手段として翁長知事の承認撤回を唱える政党や労働組合は、辺野古海域への土砂投入や秋の知事選が近づく中で、撤回前の県民投票を目指す動きに戸惑いを隠さない。

 与党会派としての結論は出ていないが、共産は「埋め立て海域に土砂が投入されるタイミングで県が撤回を考えている場合、県民投票に引きずられて撤回のタイミングを逃すこともありえる」と指摘。社民・社大・結の議員は「県民投票を否定はしないが、手続きを考えるとスケジュール的に間に合わない」と語る。

 県政与党やオール沖縄会議は県民投票の研究を続けてきたが、ある与党県議は「与党会派や知事による条例提案では、自民党の反対で全会一致にはならない。すると保守系首長の市町村が投開票事務に協力しない可能性が高い」と語り、自民党のボイコットによる投票率の低下や予算確保といった実務的な困難が多いと主張する。

 「事務を拒否する市町村に対して知事が代執行の措置をとれば、強権的だと批判される。そもそも市町村に代わって事務を行う人員や場所、予算を確保できるのかという技術的な問題がある」と指摘する。

 有権者の直接請求による条例制定という「下からの運動」については、大田県政時代の1996年の県民投票では、労組の組織力を持つ連合沖縄が署名活動の実働を担った。だが連合沖縄は今回、組織として県民投票の議論をしていない。

 連合沖縄の大城紀夫会長は個人的な見解として「前回は95年の少女乱暴事件を受けた超党派の中で、政府に突き付ける民意を作ろうという盛り上がりがあった。政府が沖縄の声を聞くかもしれないという一抹の光が当時はまだあった」と指摘する。

 その上で「現在の強権的な安倍政権や司法が、法的拘束力のない県民投票の結果を尊重するだろうか」として、県民の機運や効果の状況が当時と異なるとの見方を示した。