現職知事の在任中の死去という復帰後の県政史上、初めての事態を迎えた。翁長雄志知事は、知事選で示された新基地建設反対の民意を一貫して体現しながら、その訴えを無視して基地建設工事を強行してきた政権の強大な権力と対決してきた。その重圧は計り知れない。翁長知事の心身を削ってきたとみられる。歴代県政の中でも高い支持率を背景に国策の押し付けに異議を申し立ててきた翁長県政の終焉(しゅうえん)により、沖縄の自治の在り方が改めて問われることになる。
翁長氏が公の場に最後に姿を見せた7月27日は、前知事による辺野古埋め立て承認の撤回を表明した記者会見だった。沖縄防衛局が土砂投入開始を通知した今月17日が迫る中で、撤回による工事停止に向けて、事業者の言い分を聞く聴聞手続きに入るよう職員に指示した。
知事権限の中でも「最後の切り札」と言われる撤回について、現段階で今後の法廷闘争に耐え得るだけの根拠を持ち得るかと県庁内部にも慎重意見があった。だが、土砂投入を見過ごせば、沖縄の政治の先行きに禍根を残すという自身の政治判断も含め、「全て知事の責任で」と決断した。
だが、撤回の実施を自らで決定することはかなわなかった。前倒しの県知事選へと向かう中で、埋め立て承認の撤回という重大な決定を副知事による職務代理が実施できるのか、法的検証や政治日程も絡み合い、先行きは複雑な様相を呈している。
唐突にリーダーを失う県民の喪失感は計り知れないばかりでなく、国策の押し付けにあらがう地方の長として全国的にも支持があっただけに衝撃は大きい。翁長氏の任期途中の死去により、基地問題や政局など各方面で混乱することも予想される。辺野古新基地建設阻止の行方も不透明さを増す。こうした混乱に乗じて国が埋め立て工事を計画通りに進めるようであれば、県民世論の反発は必至だ。
「米軍施政権下、キャラウェイ高等弁務官は沖縄の自治は神話であると言ったが、今の状況は、国内外から日本の真の独立は神話であると思われているのではないか」(2015年11月、辺野古代執行訴訟第1回口頭弁論知事意見陳述)。沖縄に負担を押し付け、繁栄を享受してきた日米安保体制のゆがみを突きつけ、公平な負担を日本全体に求めてきた翁長氏の言葉に国民全体としてどう応えるか。沖縄からの問い掛けは終わることはない。 (与那嶺松一郎)