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大麻は問題行動のない「普通の子」の手にも… SNSのつながりが教師から見えにくく <薬物禍 危うい少年たち(下)>


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「クスリは簡単に買える」。少年の周囲には大麻を含めた違法薬物への誘いが頻繁にあったという=那覇市(画像は一部加工しています)

 「お兄さん、ちょっといい?」

 那覇市に住むアルバイトの少年(18)は一昨年の5月末、国際通り近くの公園で20代くらいの見知らぬ男から声を掛けられた。時計は午後8時を回った頃。市内の高校に通う友人と2人で「ゆんたく」している時だった。

 「クサ(大麻)、あるけど」。近くに止めた車まで一緒に来れば、現金と引き替えに現物を渡すと言われた。少年は誘いを断った。

 だが、こうした経験は初めてではなかった。同じ年の平日の昼間、国道58号沿いのビルの近くを歩いている時にも声を掛けられた。

 「『やせるクスリ』もあるよ。嫌なこと、忘れられるよ」。話し掛けてきた男は大麻のほか、覚醒剤を持っているとほのめかした。

 中学時代から非行を繰り返し、少年院に入った経験もある少年にとって違法薬物は身近なものだった。「悪そうな子を見つけて声を掛けてる感じだった。先輩や友達から『あそこに行ったら買える』と教えてもらうこともあった」

 最近は、街角に立つ密売人の姿を見る機会は減った。一方、入手する手段は身近な所で広がっている。地元の不良仲間や同級生、先輩。交友関係の中には、どこかから大麻や覚醒剤といった違法薬物を調達する者が混じっている。

 まん延した大麻は「普通の子」の手にも渡る。今回の事件で摘発された高校生について県教育委員会は「出席には問題なかった」と説明した。関与した人数の多さもあり「大きな衝撃」と重大性を強調したが、生徒指導に携わる現場の教員は「10年以上前から恐れていたことだ」と、冷静に受け止める。

 「薬物乱用防止について再三再四にわたり指導してきた。このような取り組みにもかかわらず事件が発生したことは極めて残念であります」。事件を受けて記者会見した平敷昭人県教育長は表情を硬くした。「再三再四」の指導が届いていなかったことに対する悔しさが表れていた。

 学校では保健体育の科目で薬物の危険性を必ず教える。加えて、専門家を招いた薬物乱用防止教室も9割の高校が開催している。県教委は指導法を検証する作業を始めたが、ある校長は「これまでも十分にやってきたはずだが…」と、対策強化の方向性を見いだせずに頭を抱えた。

 「外見で分かる『不良』はいなくなった。みんな『普通の子』に見えるが、それぞれ家庭や交友関係に問題を抱えていて、普通の子はいない」。あるベテラン教員は、生徒それぞれの事情に合わせた手厚い指導が必要だと強調する。

 会員制交流サイト(SNS)のつながりは、学校の親友にさえ明かさない。その上、どこの誰かも分からない人と深くつながることもある。教師も親も友人も気付かぬまま、大麻が生徒に忍び寄っている。「このままでは覚醒剤やピストルにだって及ぶかもしれない。今すぐ抜本的に指導方法を見直さないと」

 (安里洋輔、稲福政俊)