有料

キクラゲを沖縄の新たな産業に 旭イノベーション株式会社


キクラゲを沖縄の新たな産業に 旭イノベーション株式会社 北中城村比嘉のハウスで、キクラゲ栽培を手掛ける旭イノベーション株式会社代表取締役の仲眞秀哉(しゅうや)さん(右)と専務取締役の島袋洋平さん。2021年、未経験の状態からキクラゲ栽培に挑み、試行錯誤の末、軌道に乗せた。2人が手にする菌床からは、大ぶりな美しいキクラゲが育っていた 写真・村山望
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

未経験から栽培を軌道に乗せる

北中城村内で、IT技術を活用したキクラゲ栽培が行われていることをご存じだろうか。栽培を手掛ける旭イノベーション株式会社は、ウェブマーケティング事業からスタートしたベンチャー企業。代表取締役の仲眞秀哉さんは、農業未経験の状態からキクラゲ栽培に挑み、専務取締役の島袋洋平さんと2人で、ハウス内の温度・湿度を調整する栽培管理システムを独自に開発。栽培を軌道に乗せた。「キクラゲ栽培は、沖縄の新たな産業になりうる」と意気込む。

ハウスのある場所は、北中城村比嘉。木々が豊かに生い茂り、豊かな水が流れる谷間だ。ここにはもともとキクラゲが自生しており、昔、地元では食用にされていたそうだ。

隣接するハウスでは、乾燥キクラゲづくりも行っている

「キクラゲは、沖縄での栽培に適したキノコなんです」と仲眞さん。25~26度の温度、80~90パーセントの湿度でよく育ち、沖縄では冬でも栽培できる強みがあるという。

2021年、もともとランの栽培をしていた4千平方メートルのハウスを買い取り、約10カ月かけて補修。農業はまったくの未経験からキクラゲ栽培をスタートさせ、23年には台風の被害も受けたが約5トンを収穫した。

IT技術を駆使

「キクラゲに興味を持ったきっかけは、当時2歳だった息子の便秘」。食物繊維が豊富なキクラゲを食べさせると、すぐに解消し、感銘を受けた。興味を持って調べるうちに、キクラゲには大量のビタミンDも含まれていることも知った。ビタミンDは、カルシウムの吸収を高め、骨を強化する栄養素として活用されてきたが、近年は免疫力の調整機能も注目されている。

仲眞さんは、筑波大学で野外教育を学んだ後カナダに留学、現地で教育関係の仕事に携わったという経歴を持つ。帰国後、18年に起業。ウェブマーケティングから事業を始めたが、将来的には農業や障がい者就労支援、体験学習を絡めた事業を展開したいと考えており、キクラゲの栽培は、その第一歩となった。

ミスト発生装置を用いて自動的に最適な湿度を調整する仕組みも、自分たちで独自に構築した

「最初のうちは、失敗も多かった」と栽培の苦労を振り返る仲眞さん。ハウスで何百種もの栽培パターンを試しつつ、家族が寝静まった後、勉強に励んだ。海外生活で培った英語力を生かして英語文献の情報も調べ上げ、栽培法を確立していった。

専務取締役の島袋洋平さんと2人で、IT技術を使ったハウス内の温度と湿度を自動で調整する独自システムの開発にも取り組んだ。「現場をよく知っている人間でなければ開発はうまくいかないと思います」。例えば湿度には風向きも影響し、それを計算に入れたシステムの構築が必要だったが、肌感覚で現場をよく知る人間でなければ成功しなかっただろう、と振り返る。

旭イノベーションのブランド「きくらげ小町」の製品。キクラゲの粉末を練り込んだクッキー

独自の栽培法も確立

キクラゲを加工したゼリーやクッキー、粉末などの商品開発・販売にも意欲を燃やす。昨年1月には「きくらげ小町」としてブランド化。今後、ネット通販で全国への販路拡大を目指している。

キクラゲを粉末化することでビタミンDをより効果的に摂取できるが、仲眞さんがこだわったのが、ビタミンDの含有量。EM菌を活用するなど試行錯誤を重ね、無添加でありながらビタミンDを豊富に含むキクラゲの栽培法を確立した。粉末が水に溶けにくいのが課題だったが、国内外の文献を研究した末、独自の製法も考案。水に溶けやすい粉末が今年1月に発売される。

1月に新発売されるパウダースティック。パウダースティックはキクラゲ由来のビタミンDと食物繊維を効率的に摂取できる。独自の製法を用い、水に溶けやすい粉末に仕上げている

「私の妻の祖父である仲本正秀おじぃは、台湾から沖縄に病害に強い菊を持ち帰り、『北中1号』として菊産業を普及させた人物。正秀おじぃにならい、キクラゲの新品種を登録して『北中2号』と名付けるのが夢。キクラゲ栽培を沖縄の新しい産業に育て、障がい者の就労支援や収穫体験の提供にもつなげていきたい」と目を輝かせる。キクラゲ栽培の未来に期待したい。

(日平勝也)

問い合わせ

080-7032-06399~18時(土日祝日除く)

きくらげ小町 通販サイト https://kikurage-komachi.com/

(2024年1月4日付 週刊レキオ掲載)