HPVワクチンは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンです。HPVは性交渉で感染するため、性交渉開始前にワクチンを接種します。日本では2013年に定期接種に指定されましたが、重篤な副反応が疑われ、積極的勧奨が差し控えられました。当時副反応が疑われた症状が、ワクチン接種とは直接関係がないことがわかったため、22年に積極的勧奨が再開されています。
13年から21年までの「HPVワクチン積極的勧奨の差し控え」。このために日本では世代間のHPVワクチン接種率に大きな格差が生まれています。今年24歳以下の女性は、ほとんどがワクチンを接種していない「停止世代」です。子宮頸がんは20代から罹患(りかん)し始め、「停止世代」では今後何万人もの女性が子宮頸がんで亡くなると言われています。
その未来を変えるのが9価HPVワクチン(シルガード9)です。9価HPVワクチンは21年に国内販売開始され、23年4月からは、対象年齢の女子には公費で接種できるようになりました。HPVワクチンは、がんを予防できる唯一のワクチンであるというのみならず、長期間、確実に感染を予防するという点で、他のワクチンとは大きく異なります。まさに日本の未来を変えるスーパーワクチンなのです。
9価HPVワクチンは、14歳までに接種すれば2回接種、15歳以上になると3回接種となります。性交渉の有無にかかわらず、14歳までの接種が勧められます。定期接種の年齢である12歳から16歳の間に接種機会を逃した1997年度生まれまでの女性に対し、公費で接種費用を負担する「キャッチアップ接種」が2022年より開始しました。しかしキャッチアップ接種は25年3月までの期間限定のため、これを逃すと任意接種となり、約8万円を自己負担して接種しなければならなくなります。
ワクチン接種と検診の普及により、子宮頸がんは撲滅できるがんです。子宮頸がんにかかる人がいなくなる未来か、このまま何万人もの女性が亡くなる未来か、選ぶのは私たち自身です。
(直海玲、県立北部病院 産婦人科)