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新しいことに、反対せず 諦めずに、工夫をしたい<伊是名夏子100センチの視界から>172


新しいことに、反対せず 諦めずに、工夫をしたい<伊是名夏子100センチの視界から>172
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 新しいことが始まり、初めての人と出会う4月、緊張しながら頑張っている人も多いでしょう。障害のある私も、階段だらけの高校に進学したり、東京の大学に進学して一人暮らしを始めたりと、期待と不安でいっぱいの春を何度も迎えました。しかし自分の不安な気持ちよりも、まわりがあまりにも私の進学や一人暮らしを心配し、反対するので、その対応も大変でした。

 私たちの生活する家や学校、バスやスーパーをはじめ、いろいろな建物がバリアフリーでなく、制度さえも障害のある人の存在を考えられていないものが多いです。そこを変えていくのではなく、困難さに立ち向かおうとしている私を止めたり、変えようとしたりする人が多いことが大変なのです。目に見えにくい、みんなの思い込みの中にあるものこそが、障害がある人が抱える大変さの一つです。反対する前に、大変そうだから力になるよ、どうしたらできるか一緒に考えよう、と言ってくれる人が増えてほしいです。

 いろいろな大変さの中、私が乗り越えられた理由は「車いすなのだから、うまくいかないことが当たり前」と思っていたからです。工夫を重ね、助けを求めるしかない、と割り切って、どうすればやりたいことができるか、をいつも考えていました。人に相談し、情報を集め、味方を増やし、交渉を重ねました。

 精神科医の森川すいめいさんは「同じ困難があったとき、工夫することを知っている人と知らない人とでは、その困難によって受けるストレスが違う」と言っています。私は人や経済的なことをはじめ、環境に恵まれていたからこそ乗り越えられたこともあると思いますが、自分らしく生きるための工夫を諦めませんでした。失敗や傷ついた経験がたくさんあったからこそ、工夫をする力も身についたと思います。

 障害のある本人が工夫することなく、当たり前に希望する学校に通えて、バスにも乗れて、どんな場所でも行けるのが理想です。でも桃源郷のような、誰もが困らない場所はないでしょう。困難さがある事実をその場にいる人が見過ごすことなく、人を排除せず、一緒に受け止め、試行錯誤を重ねて動いていけたら、誰にとっても心地よい場所になるでしょう。人のためだけでなく、自分の困りごとにも我慢せずに、いいやり方に変えていけると信じて、新しい環境を乗り越えていきたいですね。


 いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。