2000年代初めごろから徐々に普及し始めたAED(自動体外式除細動器)。現在ではショッピングモールや公共施設など、多くの人が集まる場所には必須の医療機器となっています。AEDは心室細動という致死的な不整脈に対して直流通電をいち早く行い「心臓突然死」を防ぐのがその役割ですが、現在でもなお1年間に6万~8万人の方がこの心臓突然死で命を落としています。これは1日あたり約200人に相当し、毎日旅客機が1機墜落するのに相当する驚くべき数字です。
心臓突然死の予兆として、忘れてはいけないのが「失神」です。とくに心臓病を原因とする失神(心原性失神)は大変危険な状態であり、そのまま意識が回復しなければ心臓突然死となりかねません。動悸(どうき)や胸痛などの前駆症状を伴うこともあれば、なんの前触れもなく突然発生することもあるので要注意です。
心当たりのある方は循環器内科の医師に相談してほしいと思います。まず問診や簡単な検査で心原性失神の可能性を探ります。場合によっては長時間心電図やCT、カテーテル検査などの精密検査が追加されます。心原性失神が疑わしいにもかかわらず原因が特定できない場合には、ループレコーダーという小さな記録計を皮下に植え込み、数か月にわたり心電図を観察することもあります。
心臓突然死は心臓に何らかの持病を抱える方に発生しますが、とくに心臓のポンプ機能の低下をした方に多いとされています。心臓突然死の予防には植え込み型除細動器(ICD)というペースメーカーのような器具を体に植え込む手術が行われます。いわばAEDを24時間携行しているのと同じ状態です。心臓のポンプ機能が低下した方に対して、失神や心停止を経験したことがなくても将来の突然死を未然に防ぐためICDを植え込むことがあります。
すでに心停止を経験した方に対する再発予防(二次予防)に対して、このような措置を一次予防と呼びます。現在、日本全国で年間およそ1万人の方にICD植え込み手術が行われていますが、その4割はこのような一次予防を目的としたものです。
(前田武俊、大浜第一病院心臓血管センター 循環器内科)