高齢化が進む中、老人ホームやグループホームで亡くなる人が増えている。看取(みと)りの経験が乏しかった高齢者施設の職員には戸惑いも広がる。遺体への処置や家族との別れをどうするかなどのエンゼルケアを学ぶことで、職員の悲嘆も和らげようとする動きが県内で始まっている。
死を受け入れる
「患者や家族にとっての良い看取りができる。そして、スタッフ自身の死に対する不安や恐怖の軽減にもなります」
エンゼルケアを学ぶ意義を県立看護大准教授の大城真理子さんは、こう説明した。
認知症高齢者のグループホームなど5施設を運営するウェルケア沖縄が初めて開いた看取り講座。5月までに2回、介護や看護の職員計約40人が聴き入った。
エンゼルケアといえば、化粧をして身なりを整えることと思われがちだ。しかし、大城さんが強調したのは、故人の思い出を家族と語り合うこと。シャワーで体や髪を洗ったり、服を着替えさせたりを家族と一緒にしながら話す。
「『長年、苦労を掛けてきたので感謝している』とおっしゃってましたよ」。普段接してきた故人の思いを「故人の代弁者」として伝える。それが、家族にも、医療や介護の従事者にも死を受け入れる時間になる。
![](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/2024/06/2-3.png)
その人らしく
大城さんは、遺体に化粧をするエンゼルメークを、シャワー浴や更衣などと併せてエンゼルケアのひとつと位置づけた。メークについては化粧品を実際に手に取って試してもらった。乾燥を防止し、血色を補う。女性も男性も、家族の記憶の中にあるその人らしさを大切に、化粧を施す。
受講した30代の介護福祉士は入居者の看取りをしたばかりだった。最期を迎える前、その人が好きだった三線を部屋で奏でたという。果たして良かったのかと気にしていたが、講座を聴き「意味づけができて良かった」と安心したと言う。
人生を変える言葉
看取り講座を始めた背景には、グループホームでの死亡が毎年のようにあるからだ。「介護職員は入居者に感情移入している分、亡くなるとショックが大きい。家族に納得し、喜んでもらえることが職員の心の回復にもなる」とウェルケア沖縄の施設支援部長上里さとみさん。高齢者施設では死後の処置を葬儀業者に任せることが多いというが、職員が関わることを提唱する。
大城さんと共に講座を企画した県立看護大教授の謝花小百合さんも、ケアをしてきた人と納棺師の違いを指摘する。「ずっと関わってきているから、遺族にどんな言葉をかけたらよいか分かる。遺族と故人との関係を修復することもできる」
看護師を志す学生に、謝花さんはこう教えてきた。「言葉がけで遺族の人生を変えることができる」。施設の介護福祉士らにも伝えたいと願う。
沖縄県によると、2022年に亡くなった人の死亡場所は老人ホームが11.5%で、10年前の割合と比べると約3倍に。グループホームを含む自宅は19.2%で、同じく約1.5倍に増えた。
ヌジファがケアに 県立看護大・謝花小百合教授 地域の死の文化 基盤に
![](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/2024/06/6-16.jpg)
病院で働く看護師も看取りに困難感を抱くことが多いという。沖縄の看取りの風習「ヌジファ」について調査した県立看護大教授の謝花小百合さんは、地域独自の死の文化を基盤にした家族ケアを提唱している。
自宅以外で人が亡くなると、体を離れたマブイ(霊魂)がそこに残り、成仏できない。沖縄では古来、そう信じられてきた。そこで、すすきの葉を結んだサンなどでマブイを拾い上げるのがヌジファだ。患者の死後、病室で家族やユタが行う。
謝花さんは昨年3月、県内のがん拠点病院など9つの医療機関で働く看護師に調査。有効回答を得た429人のうち、ヌジファを「知っている」が60%、ヌジファをするのを「容認したことがある」が52%だった。
「どんなに多忙でも希望があれば時間を確保する」と話す看護師もいた。かつては、ヌジファをしていない病室を、次に使う患者が嫌がることもあったという。一方で、近年はコロナ禍で家族が病室に入れず、できなくなっていた。
謝花さんは、ヌジファについて「故人と過ごす時間が家族のグリーフケア(悲嘆のケア)につながる。やり残しがないことで後悔を最小限にできる」と評価する。併せて、人生の最終段階で患者の意思を尊重したケアができるように、家族や医療従事者が患者本人と話し合っておくことを謝花さんは勧める。
(宮沢之祐)