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米欧の道具にされた日本 重なる日清・日露戦争と今 第32軍創設から80年 世界の視点から 羽場久美子氏に聞く<“新しい戦前”にしない 沖縄戦79―80年>


米欧の道具にされた日本 重なる日清・日露戦争と今 第32軍創設から80年 世界の視点から 羽場久美子氏に聞く<“新しい戦前”にしない 沖縄戦79―80年> 日露戦争を描いたフランス人画家ジョルジュ・ビゴーの風刺画。英国に背中を押され、日本がロシアと戦う様子が描かれている。その背後に米国がいて眺めている
この記事を書いた人 Avatar photo 中村 万里子

 80年前の1944年3月22日、南西諸島を管轄する第32軍が創設された。第32軍は沖縄戦を指揮し、住民を巻き込んだ地上戦で軍民20万人余りが命を落とした。1930年代、日本は満州を占領し、それまでの軍縮の世界的な枠組みから離脱。日中戦争が激しさを増し米英と対立を深めるのと並行し、沖縄の要塞化が進められた。沖縄戦に至った近代日本の歩みと現在位置を世界の視点から読み解き、沖縄の針路について、アジアとのネットワークづくり「沖縄を平和のハブに」を提唱する羽場久美子青山学院大名誉教授に語ってもらった。 (文責・中村万里子)

 日清戦争や日露戦争を描いた風刺画が、ネット上で出回っている。日露戦争を描いたビゴーの風刺画は、日本が大国ロシアに戦いを挑み、後ろで英国があおり、米国は眺めている。米国は自ら戦争せず、相手同士を戦わせ、その後の世界は自分たちが作るということで成長し、覇権を握ってきた。後ろで世界を分割しようとしているのが欧米で、日本はそれを行わせるための道具でしかなかった。こうした絵が出回るのは、現在の日本と中国を巡る状況が日清・日露戦争当時の状況と似ていると認識されているからだろう。

植民地の時代

 植民地時代、欧米は帝国主義的に植民地戦争を戦っていく中で、カラード(有色人種)を劣等民族として見ていた。その結果、アジアやアフリカ、ラテンアメリカの大国は全て滅ぼされたり抹殺されたりした。

 明治期に遅れて日本は、欧米にならって近隣諸国を植民地化し、富国強兵を目指して大陸に進出した。しかし、米英には第1次世界大戦の頃から、アジアで覇権を広げる日本への警戒感があり、1922年のワシントン海軍軍縮条約にもつながった。条約では日本の軍艦の配分が抑えられた。

 日本は抵抗したが認められず、条約を破棄して満州や東南アジアに出て行った。領土を奪取していくことによって欧米に対抗するという考え方があった。第2次世界大戦は日本のナショナリズム・軍国主義と米国や欧州の植民地主義がぶつかった形だ。日本は中国米英を敵にして戦争を始めた戦略性のなさ、人権蹂躙(じゅうりん)や植民地主義の暴走からも、まったく利のない戦争に出て行った。

抑え込みが復活

 世界経済の長期波動を研究していた英国人の経済学者アンガス・マディソンによると、欧米や日本がアジアを植民地化して伸びてきたこの200年くらいの時代は終わりつつある。

 米金融大手の経済長期推移の予測によると、あと十数年で中国が、30年ほどでインドが米国を抜く。そうした中、20世紀の植民地主義的な非西欧世界の抑え込みが復活してきているように思える。東アジア同士で戦争してくれれば、経済のレベルでも米や欧州の覇権が問題なく続くので、東アジアの戦争は実は米欧で待たれているのではないかと思う。東アジアは欧米から地理的にも遠いので、戦争になれば核が使われる懸念があり、ウクライナやパレスチナ以上の兄弟殺しになる可能性がある。

羽場久美子青山学院大名誉教授

日本全土が標的

 日本は東アジアで戦争が起きた時は、ウクライナやパレスチナ以上に厳しい状況が起こることを認識したほうがいい。分かっていないのか、分かっていても米国の圧力に耐えられないのか、沖縄を含め日本全土に近隣国を標的とするミサイルが配備されるのは今や既に「新戦前」だ。それで日本が守られるならまだしも、日本全土の基地が攻撃されることになることは日本の利益にならない。

 日本は安保3文書の改定で米軍が戦わずとも自衛隊が戦うことを受け入れた。「盾から矛へ」は憲法9条違反だ。しかし本土の人たちは戦争の危機感があまりない。よく言われるように「沖縄と南西諸島で起きても本土で起こらないのではないか」といった考えは是正していかなければならない。政治家は国民を戦争の危険にさらしている重大さに気づいてほしい。

 また、日本は人口減少から急速に衰退し、2075年にはグローバルサウスのインドネシアやナイジェリア、パキスタンなどに抜かれ、上位10位から転落するとされる。国内の問題に向けるべきであり、戦争をやっている状況にはない。

平和のハブに

 地政学的に米国から見れば沖縄は補給と前線基地であり、現在は中国に向けた基地だ。しかし沖縄自身の側に目を転じると、歴史的には琉球王国の時代から東南アジアや中国、韓国など回りのあらゆる国々と戦争ではなく交易と文化交流で繁栄し、安定してきた。

 私が共同代表を務める「沖縄を平和のハブとする東アジア文化経済交流」プロジェクト(沖ハブ)が提唱する「沖縄を平和のハブにする」というのは、沖縄が文化や経済、民族交流のセンターであったこと、これからもそのような役割を果たすことで、沖縄は日本における最貧国や地域とかではなく、東アジア全体をまとめていけるような大きな地域になるのではないかという思想だ。

 日本がすべきは中国にミサイルを向けることではなく、沖縄のように近隣諸国との良好な関係を保ち、戦争をしないと断言することだ。沖縄県が地域外交として取り組もうとしていることは非常に意義が大きい。政府ができないなら、自治体や民間で中国、韓国、台湾、アジアの国々と信頼関係や友人関係をつくり、ミサイルを廃止し戦争を避ける必要がある。


 はば・くみこ 1952年神戸市生まれ。青山学院大名誉教授、専門は国際関係学。著書に「ヨーロッパの分断と統合」、編著に「アジアの地域統合を考える 戦争をさけるために」など。世界国際関係学会副会長、青山学院大学グローバル国際関係研究所所長などを歴任。米、欧州、ロシア、中国、インドなどの研究機関で研究歴。日本学術会議政治学委員会副委員長、文部科学省大学設置審議会委員、参議院学術調査委員会委員。「沖縄を平和のハブとする 東アジア文化経済交流」の共同代表を務める。