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<記者コラム>傷つけた記憶 大嶺雅俊(暮らし報道グループ)


<記者コラム>傷つけた記憶 大嶺雅俊(暮らし報道グループ)
この記事を書いた人 Avatar photo 大嶺 雅俊

 新聞販売関係の部署にいたころ、販売促進のためイベント会場に設けられたブースでの業務がたびたびあった。主にマスコットキャラクター「りゅうちゃん」のグッズが景品の、福引コーナーでの仕事だった。

 入社1、2年目の時。ブースにいると、ひとりの高齢女性がグッズを見て、「かわいいね」と近寄ってきてくれた。福引をするには住所や名前を書いてもらう必要があった。ボールペンを渡すと、女性は微妙な笑顔で「字が書けないの」とペンを戻してきた。記入を断るための冗談かと感じた。

 相手が温厚だったことをいいことに、おどけた感じで「大丈夫ですよ。書けますよ」とまたペンを渡そうとした。女性は一瞬止まり、そして目を伏せてさみしい笑みを見せた。近くにいた先輩がその後を引き取ってくれたと思う。

 新入社員の姿が目立つこの季節になると、ふと思い出す。もっと「大きな」失敗が多々あるのに、十数年前のこのことが一番に浮かぶのは、自分の言葉で直接的に傷つけた実感があるからだと思う。

 踏み込まないといけない時もある。記者になってからは、「怒らせるのではないか」との臆病心から踏み込んで聞けず、後悔した経験の方が多い。けれども、無遠慮に、無用に傷つけて良いわけではない。正解はないと思う。だから、せめて「丁寧に」、そして「考えて」、言葉を使わないといけないと感じている。