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憎しみは消えない…でも、前へ 池袋暴走 受刑者と面会 上原義教さん 思わず出た「真菜と莉子 忘れないで」


憎しみは消えない…でも、前へ 池袋暴走 受刑者と面会 上原義教さん 思わず出た「真菜と莉子 忘れないで」 受刑者との面談について語る上原義教さん=31日、那覇市の琉球新報社
この記事を書いた人 Avatar photo 名嘉 一心

 2019年4月の東京・池袋の乗用車暴走事故で、県出身の娘松永真菜さん(当時31)と孫莉子ちゃん(同3)を亡くした上原義教さん(66)は5月29日、旧通産省工業技術院元院長の受刑者(92)と関東地方の刑務所で面会した。31日、上原さんは琉球新報の取材に応じ、「気持ちとしては一区切り付いたというか、これからは前を向いて生きていくだけ」と涙ぐみながら振り返った。

 事故を巡る裁判に参加して見た受刑者は「自分は悪くない」の一点張り。憎しみは膨らむばかりで「会うつもりはなかった」。ただ、いつまでも憎しみ続ける姿を娘が見たら「心配するだろう」とどこかで感じていた。

 事故から5年が過ぎようとしていたころ、真菜さんの夫であり、義理の息子の松永拓也さんから2通の手紙を写した写真が送られてきた。拓也さんと上原さんにそれぞれ宛てた受刑者からのものだ。そこには大事な娘と孫を奪ったことに対する謝罪と事故の原因は受刑者にあることを認める内容が書かれていた。反省を感じ、面会を前向きに考えるようになったという。

 面会場所の刑務所で、受刑者は車いすで現れた。拓也さんが再発防止に向けた意見をアクリル板越しに聞き進めたが、法廷で見た時の雰囲気とは異なりうまく話せない様子だった。それでも、一つ一つの話に集中していた。向き合おうとする姿勢がうかがえた。

 その時「真菜と莉子のことを忘れないでください」。自分でも思いもよらない言葉がこぼれた。受刑者は表情を変えず「はい」とうなずいた。しかし、上原さんにはうっすら涙を浮かべているように見えた。その後は「出所したら家族と穏やかに過ごしてください」と語りかけていた。

 翌日、真菜さんと莉子ちゃんが眠る都内の墓地に寄り、面会を報告した。憎しみが完全に消えることはない。それでも「気持ちが楽になった」。

 娘と孫を亡くした事故への思いは一区切りついたように感じている。しかし、ここに至るまでに心ない言葉を浴びせられたり、当たり前のように取材を迫られたりした。被害者であることが上原さんを苦しめる別の要因となっていた。

 事故の後、面識のない記者が自宅を訪れた時は「正直言って静かにしてほしかった」。それでも、「松永(拓也さん)が娘と孫のために一生懸命にやっている姿を見たから」発信し続けることができた。

 今では自身がさまざまな事件事故の「被害者」の話を聞いたり、被害者としての経験を語ったりしている。「同じ思いを繰り返してほしくない」と願うからだ。

 (名嘉一心)