自治体に対する国の指示権拡大に首長の過半数は肯定的だった。大雨や地震、感染症といった災難が相次ぐ中、複雑な対応は国の方針に従った方が確実で、地域ごとの差をなくせるとの考えもある。ただ地域の実情を把握しているのは自治体だ。国の判断が正しいとも限らない。専門家は、国依存は自治体の責任逃れと批判する。
安心
今回のアンケートで指示権拡大に肯定的だった首長のうち、理由(複数回答)として34%は「国の指示があった方が安心できる」を挙げ「想定外の事態では、現場よりも国が率先して対応すべきだ」も16%だった。財政難や人手不足に悩む地域は多く、経験が乏しい複雑な事態は自治体単独での対応が困難になりがちなためとみられる。
「地方で判断できない問題は、例外的に指示権を行使した方が問題解決への近道となる」(岐阜県川辺町)、「国がリーダーシップを発揮して、対策の判断をする方が合理的」(鹿児島県枕崎市)との声もあった。
自治体ごとの判断では、地域によって対応が異なり混乱する心配もある。最近も自治体が国に統一的な指針を示すよう求める場面があった。気象庁が8月、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表。海水浴場やイベント開催を巡り、自治体によって対応が割れた。
黒岩祐治神奈川県知事は松本剛明総務相に「各市町村で対応が異なり、県民に注意を呼びかける立場として戸惑った。対応を整理してほしい」と要望。岸本周平和歌山県知事も記者会見で「ある程度統一的な物差しを作ってもらえればありがたい」と述べた。
地方の知恵
一方、非常時に国が正しく判断できるのかという疑問や地方の自主性を尊重すべきだとの声も根強い。コロナ禍では国が全国一律の休校を要請。地域によっては感染状況の実情にそぐわず、無用な対応を強いられた。
アンケートでは「コロナ騒ぎをみても混乱していたのは国で、地方は地方の知恵で対応が図られた」(千葉県酒々井町)、「コロナの混乱は、国の指示の有無よりも、必要な時に必要な情報と権限を自治体に与えなかった点にある」(愛知県みよし市)との意見があった。
北海学園大の堀内匠准教授(地方自治)は、東京電力福島第1原発事故直後、地元自治体がバスを手配して住民を避難させた例を挙げ「市町村は最前線で住民の暮らしと安全を守る存在。自分の頭で考え、行動できなければ役割は果たせない」と強調する。
自治体が国頼みになるのは「結局は責任を取りたくないということだ」と批判。指示権拡大は「より国が強権的に振る舞う可能性が高まっただけだ」と突き放した。
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役割分担不明瞭も
中央大の礒崎初仁教授(地方自治論)の話 国の指示権を肯定的に受け止める回答がこれほど多いとは驚きだ。感染症や災害が続出し、地方任せにせず、国に責任を負ってほしいという思いが根底にあるのだろう。政府が権限行使の具体的な場面を示さず、あいまいなまま議論が進んだことで、国が適切に指示してくれるという思い込みが広がった面もあるのではないか。自治体が精いっぱい対応しているのに、国が介入して現場が混乱し、役割分担が不明瞭になる恐れもある。