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台湾有事は望んでいない 中国研究者「平和統一が基本」 北京学術交流を取材して(新垣毅・琉球新報報道本部長) 


台湾有事は望んでいない 中国研究者「平和統一が基本」 北京学術交流を取材して(新垣毅・琉球新報報道本部長)  沖縄の歴史や文化などについて研究成果を発表した第4回琉球・沖縄問題国際シンポジウムの参加者ら=10月28日、中国・北京大学
この記事を書いた人 Avatar photo 新垣 毅

 琉球・沖縄の歴史や東アジアとの関係などについて学術的な意見を交わす第4回琉球・沖縄学術問題国際シンポジウムが10月28、29の両日、中国の北京大学で開かれた。2016年の第2回にも参加したが、当時と比べ、中国側研究者の琉球・沖縄研究への熱意の高まりが印象的だった。背景も異なる。台湾有事を想定した沖縄の軍事強化が急激に進む中、中国社会の沖縄への関心が強まっている。個別の意見交換で中国研究者が口々に強調したのは「中国や台湾の人々は台湾有事を誰も望んでいない」だった。

特別な意味

 シンポは、琉球王国時代の日中両属論や琉球・沖縄の地位を巡る国際法上の位置付け、沖縄戦、米軍基地問題などが主なテーマだった。沖縄側から16人、中国側から41人の識者らが参加し、研究成果を発表した。交流は14年から始まったが、今回は特別な意味を持った。

 6月に習近平国家主席が「琉球」に言及。7月には玉城デニー知事が訪中し、政府要人らと会談した。その後、中国と沖縄を結ぶ航空直行便再開やビザの簡素化など、中国側が沖縄との交流を重視する施策が実行された。中国メディアでも沖縄が頻繁に取り上げられるようになった。

 中国の識者の間で、昨今の沖縄重視は「日本へのけん制」という見方があった。理由は、日本政府が昨年、閣議決定した安保3文書に敵基地攻撃能力(反撃能力)を明記し、南西諸島にミサイル部隊を配備するなど中国との戦争に備えた軍事強化を進めていることだ。それらは中国にとって確実に「挑発」や「脅威」に映っていると感じた。安保3文書とその実践が日中の緊張を高めている。

懸念は「米の介入」

 シンポ開幕に際してあいさつした中国社会科学院日本研究所所長の楊伯江教授は「日本は日米同盟に台湾問題を組み込んでいる。沖縄は軍事対立の場所になるのか、平和の拠点になるのか、岐路にある。地理的位置を活用し、万国津梁(しんりょう)の精神を発揮して平和を目指してほしい」と述べた。

 台湾問題について個別の意見交換や懇親の場で印象的だったのは「時間をかけてゆっくり平和統一を目指したい」との意見だった。台湾が独立を宣言することが中国側にとって武力行使に踏み切るか否かの「デッドライン」だが、同じ民族である上、中国にとって核心的問題であるため、時間をかけてでも実現すべきだとの見解だ。

 一方で、最も懸念しているのが「米国の介入」という。台湾からも研究者が複数参加していたが、米国が台湾の人々に対して独立を扇動することが「最も危険」とみていた。米国が中国包囲網を敷き、その戦略に乗る形で日本が急先鋒(せんぽう)として軍事強化を進めていることにも、日中平和友好条約で明記された「善隣友好」や「武力威嚇の放棄」が順守されていないと危機感を募らせていた。

自己決定権

 知事の訪中や学術交流に対し、中国に利用される危険性を指摘する声がある。中国側が沖縄への領有権を主張すれば、沖縄の人々は受け入れないだろう。大国による利用の意図を見抜けないほど無知ではない。むしろ、沖縄の人々は、辺野古新基地建設に伴う埋め立ての是非を問う県民投票のように、自己決定権を求めている。

 中国側の研究者は、自己決定権を主張する沖縄側研究者の意見を尊重する姿勢を随所で見せていた。学術交流の成果といえる。いざ有事になれば、真っ先に戦場になる危険性が高い沖縄だからこそ、中国と共に平和を築くための交流に意義がある。県民投票の結果を無視している日本政府や本土の人々による沖縄への「理解」とは大きな隔たりを感じた。

 沖縄側代表の又吉盛清沖縄大客員教授は「中国の若手を含む研究者の熱意はすごく、研究も進んでいる。驚くほどだ」と感想を述べた。東アジアの平和を築くために沖縄に何ができるか、模索を続ける考えだ。

 今月中旬、米中首脳会談が米国のサンフランシスコで開かれる。台湾問題で緊張緩和に向けた対話のレールを敷くことができるか、注目される。