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【深掘り】空港や港湾「特定重要拠点」に予算優先 政府の狙い、伴うリスク周知されず 


【深掘り】空港や港湾「特定重要拠点」に予算優先 政府の狙い、伴うリスク周知されず  波照間島(資料写真)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 政府は南西諸島を中心に民間インフラを自衛隊や海上保安庁が使用しやすい環境づくりに取り組んでいる。防衛省などが使用したい空港や港湾を「特定重要拠点」に指定し、優先的に予算付けする事業だ。自衛隊が円滑に利用できることが事実上の条件となる。一方、有事には標的となる危険性もはらむが、政府は周知していない。

 防衛省・自衛隊は既に民間空港で戦闘機の離着陸訓練などを実施している。内倉浩昭航空幕僚長は9日の記者会見で「使える飛行場は一つでも多い方がいい」と語った。港湾も同様で、防衛省は柔軟に作戦を取ることができると考えている。

 民間インフラの利用について防衛省には苦々しい経験がある。4月、北朝鮮による「軍事偵察衛星」の発射計画を受け、県内へ地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開する際、自衛隊が中城湾港を使用しようと管理事務所に申請したが、対応可能なバースが全て予約で埋まっていた。PAC3輸送のために向かっていた海上自衛隊の輸送艦「しもきた」は寄港できなかった。

 沖縄県幹部は「自身らが港湾を使いたい時に使えないという事態が起こらない仕組みを作りたいのではないのか」と狙いを分析。「現行の地方自治法や港湾法などで公共施設は平等に使おうと決まっている。いくら防衛とはいえ、法律を超えることはできない」と現行法との整合性を疑問視した。

 政府はインフラ整備の候補として全国数十カ所をリストアップ、9月末から県や対象の市町村へ説明に回っている。そこでは、国土交通省や内閣府が前面に立ち、軍事色を薄め「自治体側のメリット」(防衛省幹部)を強調しようとしている。
 ただ、各自治体の受け止め方はまちまちだ。積極的に政府へ要請する自治体の動きもあるが、自衛隊利用の前提に戸惑う声も上がる。

 政府は民間インフラを整備することが国民保護にも役立つと強調する。だが、自衛隊の行動と国民保護措置を兼ねるのは、ジュネーヴ諸条約で定める「軍民分離の原則」と矛盾する。戦争中であっても民間人が巻き込まれないよう、戦闘員と民間人、軍事目標と民間施設を徹底的に区別しなければならない。
 堀井巌外務副大臣は14日の参院外交防衛委員会で、パレスチナ情勢に関する質疑で榛葉賀津也氏(国民)から国際法の一般的な解釈として「軍事作戦に利用された民間施設は法的に軍事目標とみなされるという解釈でいいか」と問われ「基本的にその通り」と答えた。
 自衛隊の使用が想定される空港や港湾は軍事目標とみなされる恐れがあり、避難のための利用には危険が伴う。この点について政府は正面から説明していない。

 表向きは自衛隊と海上保安庁の利用に向けたインフラ整備だが、実際は米軍は自衛隊と一体化して行動を共にしており、政府としては米軍の利用にもつなげたいのが本音だ。1月の日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で示した共同声明で、米軍も含めて国内の空港・港湾の柔軟な使用が重要だとし、「演習や検討作業を通じて協力する」と盛り込んでいる。

 インフラ整備は国民保護に資するとしながらも、日米両政府が進めるのは米軍も含めた軍事利用の拡大だ。県関係者は「実際に有事となれば攻撃目標になる」と懸念を示した。 

(明真南斗、與那原采恵、知念征尚)