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【記者解説】沖縄の民主主義を軽視、地方自治に禍根 辺野古代執行訴訟


【記者解説】沖縄の民主主義を軽視、地方自治に禍根 辺野古代執行訴訟 辺野古代執行訴訟の判決後の知事支援集会で、メッセージを掲げて気勢を上げる参加者たち=20日午後6時49分、那覇市泉崎の県民広場(小川昌宏撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 金良 孝矢

 辺野古新基地建設の設計変更申請の承認を巡る判決で、福岡高裁那覇支部が県に承認を命じた。地方自治法で国と地方自治体は対等協力の関係とする理念がある中で、県の権限を奪うような判断となり、地方自治に禍根を残したと言える。

 判決は付言で新基地建設に反対する県民の心情に理解を示しつつ、国の主張のみを採用し結論ありきの印象も受ける。注目された代執行要件の公益性では、反対の民意は公益の考慮には当たらないと判断した。

 2000年の地方分権改革で中央集権型の機関委任事務は廃止されたが、判決はその趣旨に反し、国の中央集権主義的な状態に戻してしまったようにも映る。国の政策や事業に対し、地方自治体が異を唱えることができなくなる懸念が拭えない。

 訴訟で国は、県が承認しないことを放置することで、普天間飛行場の危険性除去が実現できないなどとして「著しく公益が侵害される」と主張。県は、新基地建設反対の県民意思が示されてきたことから「民意こそが公益」と反論して承認してこなかった。

 判決は県の対応の放置について、憲法にある法の支配や法治主義の理念を著しく損なうとして「社会公共の利益を甚だしく害する」と踏み込んだ。民意が公益の考慮対象にはならないとすることは、沖縄の民主主義を軽視している。県側代理人の加藤裕弁護士が「極めて限定的な公益のみを対象に判断した」と批判するのも当然だろう。

 県民は悲惨な沖縄戦を体験し27年間、米統治下に置かれ、憲法が保障する人権や自治権が適用されなかった。日本復帰後も、基地は減らず騒音被害といった負担が今も続く。その状況にある県民の民意を背景に玉城デニー知事は、新基地建設にあらがってきた。

 一方、国は大浦湾の軟弱地盤の存在を隠すなどして工事を強行してきた。県が働きかけた対話にも真摯(しんし)に応じてきたとは言えない。判決は付言で対話の重要性を指摘する以外に、司法としての解決策は示せなかったのか。裁判所が国の姿勢を追認し続けるのなら、司法は機能不全に陥ったとの批判は免れない。

(金良孝矢)