2月1日午後、米空軍が極東最大の拠点とする嘉手納基地に、ジェットエンジンの音を響かせながら灰色の軍用機が着陸した。外見は米軍も運用するような機体だが、機体後部に描かれた国籍を示すマークは、円の中にカンガルーのシルエットがあしらわれた、オーストラリア空軍のC17A大型輸送機だった。
1950年に始まった朝鮮戦争で、韓国を支援する目的で結成された「朝鮮国連軍」。72年にニクソン大統領(当時)が訪中して以降は米中和解が進み役割の形骸化も指摘されたが、東アジアの情勢の変化とともに2010年代後半以降、再び活動を活発化させている。
国内に7カ所ある国連軍基地に指定される米軍基地のうち、3カ所がある沖縄はその活動拠点となり、米軍以外の国連軍加盟国の航空機や艦艇が来るようになった。
外務省日米地位協定室によると、国連軍加盟国による在沖米軍基地の使用回数は19年に航空機20件、船舶4件。23年は航空機13件、船舶4件。オーストラリア、カナダ、フランス、ニュージーランド、イギリスが派遣していたという。
国連軍が“再起動”する契機となったのが17年9月の「国連安保理決議2375号」だ。
核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する制裁で、洋上で北朝鮮籍船舶との間で石油などの物資を積み替える「瀬取り」を禁止した。18年以降、「国連軍」の枠組みを使った警戒監視活動が継続的に行われている。
一方で、米軍や自衛隊が「台湾有事」を念頭にした部隊配備や再編を急速に進める中、国連軍基地に指定された米軍基地を使用する多国籍軍の枠組みもまた、日米と歩調を合わせるように対中国包囲網の一角へと変質しつつある。
22年に南西諸島を中心に実施された日米共同統合演習「キーン・ソード23」には、国連軍に参加する英、豪、カナダ各軍の艦艇や航空機が一部訓練に参加した。
当時の浜田靖一防衛相は22年11月15日の会見で、演習への豪軍などの参加について「基本的価値観を共有する同盟国、同志国などとの連携を強化することに寄与する」と強調した。
東京工業大の川名晋史教授は「国連軍は現在、北朝鮮の『瀬取り』対応を理由に米軍基地を使っているが、実際には台湾有事を念頭にした共同訓練が行われているのではないか」とみる。
国連軍の存在によって「日本の安全保障が(日米の二国間関係だけでなく)多国間の重層的な枠組みの中で維持されてきた」と意義付けた。一方、米軍の基地管理権に阻まれて「在日国連軍がどういった活動をしているのか日本政府がチェックできない仕組みとなっており、主権が侵害されている」と問題点を指摘した。
(知念征尚)