第11管区海上保安本部が釣り船などの遊漁船の取り締まりを強化している。「遊漁船業の適正化に関する法律」(遊適法)に基づく過去5年の摘発件数をみると2022年までは年間0~11件だったが、23年は53件と急増し、全国的にも増加ぶりは際立つ。11管は22年4月に発生した北海道・知床沖での観光船沈没事故を受けた安全指導強化と説明する。一方で一部の船長からは「摘発が性急すぎる。やりすぎではないか」との声も上がる。
■登録票掲示など義務
遊適法では、船内や営業所への登録票の掲示、利用者名簿の設置、代表者などを変更した際の登録届け出などを義務付け、違反者には罰金を科すとしている。
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11管によると、同管区内で遊適法の摘発件数は19年1件、20年0件、21年8件、22年11件で推移してきたが、23年は前年の約5倍の53件と大幅に増加した。海上保安庁によると、全国での摘発件数は23年では225件と22年と比べて28件増(同約14%増)で、11管の増加幅は目立つ。11管は「知床沖の観光船沈没事故を受け、改めて安全指導を行った」と説明している。
■以前は注意されず
一方、23年に遊適法で摘発された複数の遊漁船の船長からは困惑の声もある。取材に応じた船長らによると、摘発理由は登録票を営業所の目立つ場所に掲示していなかったことや、毎年更新が必要な利用客向けの損害賠償保険について、保険期間を変更したことを県に届け出ていなかったことなど。利用者名簿に性別欄がないなど、これまでは注意を受けることすらなかった事項もあると説明する。すでに処分を受け、70万円の罰金を支払った船長もいるという。
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■罰金「廃業に直結」
いずれの船長も取り締まり強化には理解を示す。ただ、ある男性船長(55)は「安全対策というなら、まずは啓発や是正勧告から入るのが筋ではないか」と指摘する。30年以上、遊漁船業を営んできた船長(58)は「法的にはそうだろうし、強化する事情も理解できる。ただ、こんなに高額な罰金は零細事業者にとっては廃業にも直結するレベルだ。陥れようとしているのかとさえ感じる」と11管への不快感をあらわにする。
遊漁船業以外にパート業にも就いていた船長(63)は保険期間変更の届け出がなかったことなどで摘発された。11管からの連絡に多忙で応じられずにいたところ、パート先に何度も電話が掛かった上、自宅や事務所に家宅捜索が入るなどし、「同僚や交際相手との関係まで壊れた」と嘆く。
■日常的に対話を
事業者から批判があることについて尋ねた本紙の取材に対し、11管は「捜査内容に関することは回答を差し控える」と返答している。
小型船舶免許に関する講習や相談業務を行う、かいと海事事務所の阪口英幸海事代理士は「人の命を預かって営業する以上、ルールを知らなかったでは済まない」と指摘。一方、11管側に対しても、「事故の未然防止のためには事業者から頼られやすい環境づくりも必要。啓発活動などで日常的にコミュニケーションを図るべきではないか」と提唱した。
(西田悠)