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多様な性へ、多様な取り組み 企業や自治体などの取り組みとは?<沖縄DEEP探る>


多様な性へ、多様な取り組み 企業や自治体などの取り組みとは?<沖縄DEEP探る> 琉球大学学内に掲げられたレインボーフラッグ(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 性の多様性を尊重する意識が高まり、トランスジェンダーや性的マイノリティーなどを含めたすべての人が持つ性的指向・性自認を表す「SOGI(ソジ)」への理解も深まっている。差別や不平等を撤廃し、誰もが安心して生活できる環境を実現するために企業や自治体が進めている取り組みをまとめた。

 自治体

 今年6月時点で、性的少数者のカップルの関係を公的に認める「パートナーシップ」制度を施行している自治体は国内で約460ある。都道府県単位では東京都、愛知県、大阪府、福岡県など25の都府県が導入している。沖縄県でも今年3月、玉城デニー知事が、本年度中の導入を目指す方針を明らかにした。

 自治体では、那覇市と浦添市の2市で導入されている。2015年に「レインボーなは宣言」を表明した那覇市では、翌16年から登録制度を始めた。さらに22年にはカップルそれぞれの3親等内の血族または直系姻族も「家族」と見なす「パートナーシップ・ファミリーシップ」制度として拡充している。23年度までに登録は71件、そのうちファミリーシップ登録は3件あった。

 浦添市では、21年にカミングアウト強要の禁止などを盛り込んだ「性の多様性を尊重する社会を実現するための条例」が施行された。これを受け、今年6月までに13組のカップルに市からパートナーシップ宣誓証明書が交付された。

 大学

 琉球大学では23年に専門の相談窓口を開設し、法律や心理学の知識を持つ専門相談員が、性的指向や性自認、性表現など性の多様性に関する悩みを受け入れている。6月には性的少数者の権利擁護を呼びかける「プライド月間」に合わせ、独自のポスターを作り学内に掲示した。各学部の窓口にレインボーフラッグを掲揚し、性の多様性を尊重するメッセージを学内外に発信している。

 性別違和や性自認の不一致などを理由とした学生の通称名使用も申し出に応じて許可している。琉球大学ヒューマンライツセンター長で同プライド・オフィス室長の矢野恵美教授は「誰もが安心して学べる大学を目指し、今後もさらに具体的な取り組みを重ねていきたい」と述べた。

 企業

 多様な人材を生かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供する「ダイバーシティ経営」に取り組む企業も増えている。KPGホテル&リゾートでは、従業員用トイレに男性用、女性用とは別に、レインボーマークを掲げた誰でも利用できるトイレを設置している。更衣室をカーテンで仕切り、安心して着替えができるようにするなどの配慮を約7年前から実施している。

 同社の田中正男社長兼COOは「色眼鏡で見ないことが重要だ。左利きの人を見ても驚かないのと同じように、ごく自然に仲間の一人として受け入れている」と話す。社内でも定期的にセミナーや講義を開きSOGIへの理解を浸透させている。

 寺もホテルも

 性的少数者のカップルを対象にしたサービスや商品も増えている。宜野湾市普天間にある普天満山神宮寺(東寺真言宗)は、「LGBTQフレンドリー寺」として、21年から同性カップルの挙式や納骨を受け入れている。

恩納村のスタジオでブライダルフォトを撮影した舞人さん(写真中央)、悠華里さん(同左)

 那覇市牧志のホテルパームロイヤルNAHAは14年に、「LGBTQフレンドリーホテル」宣言し、館内外にレインボーフラッグを掲げている。16年にはホテルとしては九州・沖縄で初となるジェンダーフリートイレを設置した。

 自身も男性・女性どちらも恋愛対象になるバイセクシャルであり、性的少数者カップルのプランニングを多数手がけるウエディングプランナーの安里ミムさん(31)は、県内のホテルやレストランと業務提携を結び、多様な希望に合わせた結婚披露宴やパーティーをプロデュースしている。6月に恩納村でパートナーの悠華里さん(35)と共にブライダルフォトを撮影した那覇市在住の舞人さん(31)は「ありのままの自分を形に残すことができ、祝福もされて幸せだ」と話した。性別に限定されないサイズの合うスーツの準備やロケ地の手配、カメラマンへの指示など全般を安里さんが手がけた。

 同月、那覇市安里のレストラン「CROSS47」で披露宴を開いた県外在住のカップルは「司会者やヘアメーク、会場スタッフ全員が心地よい環境をつくってくれた」と感謝した。「夫婦」や「新郎新婦」ではなく希望の呼び名を使用するなどの注意点を記載した独自のマニュアルを作成してスタッフ間で共有した。

 結婚にかかわるイベントも、安里さんのような当事者やアライと呼ばれる支援者が関わることにより、合理的な配慮が可能になる。CROSS47の茅野太陽支配人は「具体的なアドバイスを受けることで、本来の業務に集中でき、よりよいサービスが提供できる」と述べた。

 安里さんは「性別を理由に選択肢が狭まることはまだまだ多い。誰もが自由に生き方を選べる社会であるべきだ」と強調した。

 同性婚実現まで

 全国的にSOGIへの理解が深まりつつあるが、課題も多く残されている。

今年6月に那覇市のレストランでウエディングパーティを開いた同性カップル=(スイクリエイト撮影)

 同性パートナーと共に子どもを育てながら、講演などを通して多様な家族像を発信しているmatoさん(39)は「家族として暮らしていても、法的にはシングルマザーという立場。万一自分が死んだら、子どもとパートナーの関係性を証明できるものがない」と不安を吐露した。

 LGBTQ啓発団体ピンクドット沖縄の高倉直久代表理事は、県内の環境について「近年は協力企業も増え、経済界を中心に理解が広がっている」としながらも、「沖縄県は全国でもかなり進んでいるが、まだ道半ば。最終的な目標である同性婚が認められるようになるまで訴えを続ける」と語った。

 毎年全国各地から多彩な性を持つ人々が集まり、国際通りを中心に啓発活動を行うイベント「レインボーパレード」は12月8日にてんぶす那覇で開催される。 

(普天間伊織)