米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局は大浦湾側に生息するサンゴ類約8万4千群体の移植作業に着手した。23日に玉城デニー知事から許可を得た翌日だった。今後数カ月は、ストレスを与えかねない繁殖期や高水温期も続く見込みで、移植による影響も懸念される。
県がまとめたサンゴ移植マニュアルは移植時期について、サンゴの繁殖期や高水温期、強い風が吹く冬季を避けることを推奨し「秋季が活動に適している」と記している。日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全学術委員会も2021年、県から意見を照会された際に「5~9月は造礁サンゴ類の繁殖期に相当しており、この時期の移植は避けるのが望ましい」などとしていた。
21年に小型サンゴ類を移植した際、防衛局も当初は5~10月ごろを避けて移植を進める方針だった。だが、工事を急ぐために方針を変更して夏に移植を開始。県が移植許可を撤回して法廷闘争にも発展したが、県が敗訴した。
県としては国の主張を認める判決が確定した以上、時期で一律に移植を制限することは難しいとみる。今回の許可でも条件を付けているが強制力はない。県関係者は「紳士協定」と表現し「敗訴したので、できることは限られてくる。条件を守ってくれることを信じるしかない」と語った。
サンゴは移植をすれば一定程度は死滅する。県が代執行訴訟で敗訴する前は、国は大浦湾の工事に着手する権限がないため、犠牲を伴う大浦湾のサンゴを移植する必要もない、というのがサンゴの特別採捕許可申請を県が不許可とした理由だった。
それが、代執行により前提条件は大きく変わった。県関係者の一人は「県が採捕を許可しないことで『サンゴは死んでもいいのか』と問われると、なかなか苦しい」と胸の内を語った。
国は代執行を受け1月には大浦湾側の工事に着手し、サンゴの特別採捕許可を得たことを受け、大浦湾側の工事に向けた環境整備を進める。昨年10月の環境監視等委員会では、サンゴの移植前に一部護岸工事に着手しても「サンゴ類の生息環境は維持される」とのシミュレーション結果を示しており、移植が終わるまでの間も並行して、できる工事を進める構えだ。
一方、辺野古住民4人が国を相手取って起こした抗告訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は住民側の原告適格を認め、審理を一審の那覇地裁に差し戻す判決を出した。新基地建設工事は不透明な状況も続く。
(明真南斗、知念征尚)