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ダイナミックな書アートの世界 書浪人 善隆さん


ダイナミックな書アートの世界 書浪人 善隆さん 「赤龍」と「青龍」の作品を背景にほほ笑む書浪人善隆さん。我流で開拓した書は「書アート」と呼ばれ、日本テレビの番組「マネーの虎」のタイトルを揮毫(きごう)するなど、国内外で活躍の幅を広げている。現在、ザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾート(旧名称ホテルムーンビーチ)で開催中の企画展「朧々(OBOROBORO)展」では数十点に及ぶ書画を描き下ろした。=ザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾート 写真・村山望
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画と書で魅せる新しいアート

石垣市出身の書アート作家、書浪人善隆さん(55)の企画展「朧々展(OBOROBORO)~十六夜に誘う龍の晦(つごもり)~」が、恩納村のザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾート(旧名称ホテルムーンビーチ)で開催されている。来年の干支である龍が、いかにして月(つき=LUCKY)をつかむのかをテーマに、書や水墨画、コラボ作品などを展示し、ギャラリー全体で巨大な龍を表現している。

学生時代は電子工学を専攻し、ロボットを作っていたという善隆さん。その後、専門学校の講師を経て、故郷の石垣島で市役所に勤務。あるとき「海人Tシャツ」の社長に誘われデザイナーの道へ。Tシャツに描かれた「海人」の筆文字に魅せられた。

野草やガジュマルの根などを使って描くことも

「基本的に書というものを専門で学んだことはありません。全て独学です」と話す善隆さん。本来、書の世界ではご法度の二度書きもあたりまえに行う。筆も選ばず、ときにはアダンの葉やススキ、ガジュマルの根なども使用して自由に文字を書く。そうしているうちに、優れた感性を持っていたとされる宮本武蔵の「素浪人」にちなみ「書浪人」として、アートとしての書のスタイルを確立していった。

心象風景を音に

展示タイトルになっている「朧々(おぼろぼろ)」とは善隆さんの造語。水面で揺れている月の様子を表したオノマトペだ。

月をつかむ龍の腕を描いた「朧々(おぼろぼろ)」
月をつかむ龍の腕を描いた「朧々(おぼろぼろ)」

「僕が生まれ育った石垣島では毎年、中秋の名月の時期になると、両親に連れられて古典民謡『とぅばらーま』を聞きながら涼をとる文化があったんです」と善隆さんは振り返る。

「何か転機が訪れるときや、癒やしを求めているときにいつも水面に映る月を眺めていたな、とふと思ったんです。そういう心象風景に音を付けるとしたら『朧々』。一度聞いたら誰もがその情景を思い浮かべられるのが、オノマトペの力だと思っています」

龍の体内に入る

今回の展示のテーマである龍と月は、それぞれ展示場所であるザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾートと、来年の干支である辰から連想。運を意味する「ツキ」に手を伸ばした龍を描いた新作数十点を描き下ろした。

開催にあたり行われたライブパフォーマンスの一幕

「来年、夢や目標に向かって何をつかみたいと思う人は『月をつかんでいる龍』を、まだ目標がないけど、何かをつかみたいと思っている人は『月をつかもうと手を伸ばしている龍』を選んでください」と善隆さん。同じつかみ方をしている龍の画がないのは、見た人が「自分が月をつかむんだったらこういう感じかも」と共感できる一枚を見つけられるように、という思いが込められている。

「入り口を尻尾として、ギャラリー全体を龍の体内としています」と善隆さんが言うように、サンセットの時間帯になると画全体に夕日が当たり、ほんの数分間だけ光り輝く「赤龍」・「青龍」の画をはじめ、壁面から窓ガラスに至るまで龍の要素であふれている。その他にも、スマホなどの電子端末の白黒反転機能を使って鑑賞する「NEW OPPOSITE ART」や、「知名オーディオ」とデザインコラボしたアップサイクルスピーカーによる、音を取り入れた演出も見どころだ。

電子端末の白黒反転機能を使って鑑賞する「NEW OPPOSITE ART」から「ガラパゴスアシカ」

「展示会は生き物なので、期間中少しずつ展示内容も変わってきます。昼間、夜、そして夕方。いろんな時間で楽しめる展示となっていますよ」と善隆さんはほほ笑んだ。

書アートという新しいジャンルを開拓する善隆さんの今後の活動に期待したい。

(元澤一樹)

書浪人善隆「朧々(OBOROBORO)展~十六夜に誘う龍の晦~」

会期:~2024年1月7日(日)
会場:ザ・ムーンビーチ ミュージアムリゾート1階シーサイドギャラリー
時間:10:00~18:00
料金:無料

(2023年11月23日付 週刊レキオ掲載)