先代の追求した音を多くの人に
1975年創業の「有限会社 知名御多出横(以下、知名オーディオ)」は、沖縄市に工房を構える家族経営のオーディオメーカー。創業者である先代・知名宏師(ひろし)さんが長い年月をかけて開発した円筒型スピーカー「TINA AUDIO(チナオーディオ)」は、これまでの常識を覆す音域と音質から、県内外のオーディオファンから愛されている。2 代目代表の知名亜美子(あみこ)さんを取材した。
先代・宏師さんの親戚と結婚し、知名家の一員となった亜美子さんは三重県の出身。
先代が体調を崩したことをきっかけに2022年、2代目として事業を承継した。初めに着手したのは経営面。これまでは、技術者である先代が製作から販売までほとんど一人で行っている状態で、数百万円の商品が月に一台売れれば十分だった。しかし、製品の小型化により価格も下がり、多くの台数を売らなければならなくなったという。
「良いものだから、直接スピーカーの音を聞く機会を作れば売れる」という考えの下、亜美子さんは県内外の大型書店や百貨店などでイベントを開催した。他にも、知名オーディオの製品を設置している店を訪ね、実用例となるフォト集を作成。ウェブサイトやカタログ製作、ロゴを一新するなど、リブランディングを目指した。その甲斐もあり、最高143万円と高価格帯にもかかわらず注文が相次ぎ、現在は半年待ちにまでなっているという。
音で感動 届けたい
ここで先代の宏師さんが半生をかけて開発したスピーカー「TINA AUDIO」の特徴を紹介しよう。「電気溶接」という独自の手法で接合することで、通電を遮ることなく雑味のないクリアなサウンドを実現。上を向いた全指向性スピーカーは、間取りに関係なく360度全方位に波紋のように音が広がることで、奥行きのある音を感じられる。
「先代は『いかに人に寄り添う音、音楽で心を満たすか』ということを追求していました。実際、聴覚の過敏なお子さんや、難聴の方が『聞きやすい』、『良い』と言うんです。そういう意見を聞くと、私たちが聞こえないレベルの範囲でも良い音なんだな、って実感します」
また、20年には高さ17メートルの大型スピーカーでなければ再生できなかった低音を、2メートルのスピーカーで再生することに成功。世界初となるこの技術は「八分のλ(ラムダ)」と名付けられ特許庁にも認められた。
アップサイクルの取り組みも
亜美子さんが2代目となって、新たにアップサイクル(再利用)事業にも取り組んでいる。
「買い替えなどで引き取っていた中古スピーカーは、表面の傷や塗装剥がれを理由に今まで廃棄していました。だけど中古部材を交換すれば新品同等の音が出るんです。そこで県内アーティストとコラボし、スピーカー表面に絵を描いてもらうことで新しい商品としてのアップサイクルを考えました」
先代の思いを踏襲しながら、新しい風を吹き込んでいる亜美子さんに今後の目標を聞いた。
「オーディオ業界は縮小している状況ですが、私たちは量産せず、手作りにこだわる今のスタイルのままで長く続けていくことが大事だと考えています。理想は無理なく、楽しく働くことですね」
来年創業50周年を迎える知名オーディオ。先代が追求した音は今も広がり続けている。
(元澤一樹)
(2024年4月18日付 週刊レキオ掲載)