琉歌で伝える うちなーのちむぐくる 波上琉歌会


琉歌で伝える うちなーのちむぐくる 波上琉歌会 那覇市首里公民館を拠点に活動している「波上琉歌会」は、琉歌を通じてしまくとぅばの歴史的(古語)表記の継承に取り組んでいるサークルだ。現会長の前原武光さん(前列左から4人目)の手には、波上琉歌集「肝のあや花」(2010年)が添えられている=那覇市首里公民館 写真・村山望
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琉歌で歴史的しまくとぅばを継承

琉歌は「サンパチロク」と呼ばれる八・八・八・六の30音の基本形式を持つ抒情歌で、音楽や舞踊とともに発達したといわれている。那覇市首里公民館を拠点に活動している「波上(なみのうえ)琉歌会」は、琉歌を通じてしまくとぅばの歴史的(古語)表記の継承に取り組んでいるサークルだ。結成60周年を迎えた今年、その活動と今後の展望について現会長の前原武光さんに話を聞いた。

波上琉歌会の結成は本土復帰前の1964年。首里で活動していた「首里望月会」と、具志川市(現・うるま市)で活動していた「具志川琉歌会」が合流して結成したという。

会長の前原武光さん。琉球新報で毎週日曜に掲載している「琉歌(るか)や肝(ちむ)ぐすり」の選者も務めている

波上琉歌会では、歴史的(古語)表記の継承を目的に、古語を用いた琉歌づくりに取り組んでいる。歴史的表記とは、那覇市首里方言を中心とした琉球古典音楽や芸能で用いられる表記のこと。例えば、祝儀芸能で有名な「かぎやで風」を「かぎやでふー」ではなく「かじゃでぃふー」と読むなど、その工工四の歌詞の表記と読みには大きな差異がある。そのため読み書きには専門的な知識を要するのだという。

「現代表記だけでは沖縄のことは詠(よ)めないと思います。古くから伝わる琉歌や古典音楽の歌詞などはすべて歴史的表記ですから、古語を継承することは沖縄のちむぐくる、思いを伝えることにもつながります」と前原さんは語る。

意見交換の場として

現在、波上琉歌会には60代から80代までの17人が所属。月に一度の定例会では、会員が作った琉歌を全員で読み、添削を行っている。実際に定例会の様子を見てみると、歌の内容やしまくとぅばの表記について、会員からさまざまな意見が飛び交う。白熱するあまり、討論のようになることも少なくないという。

定例会の様子。机を囲み、全員で歌を添削している

「重要なのはお互いの意見を忌憚(きたん)なく交換し合うこと。年上の人だからといって遠慮せずに、疑問があれば投げかけてみんなで確認していくように呼びかけています」

メンバー全員が琉歌の作り手であり読者。それゆえ定例会は、たくさんのしまくとぅばや表現に触れながらより良い歌を生み出すための学びの場となっているようだ。しかし、歴史的表記の難しさから、若者の参加率の少なさが課題だという。「もっと若い方に来てほしいですね。初心者は普段の日常会話で使っている言葉で琉歌を作って、定例会で手直しすることもあります。次第に歴史的表記に慣れていくのが大切です」と前原さんは呼びかける。

15年ぶりに琉歌集の刊行

最後に、前原さんに琉歌の魅力について聞いてみた。

「琉歌を学ぶと、歌三線などの歌詞の理解にもつながると同時に、自分の思いや気持ちを詠んで表現できるようになります。自分の視野を広げる意味でも良いですし、琉歌会での交流を通して、昔のことをいろいろ想像したり、新しい言葉を知るきっかけになるのも大きな魅力です」

前原さんが事務局長時に波上琉歌会で発刊した2冊の琉歌集。(左から)「琉歌の泉」(2000年)、「肝のあや花」(2010年)

琉歌を通して、沖縄のちむぐくるや、先代の思いを伝えている波上琉歌会。今年結成60年目を迎え、15年ぶりとなる琉歌集の刊行を予定している。より多くの人が琉歌に親しみ、歴史的表記やしまくとぅばの面白さを再確認するきっかけになることを期待したい。

(元澤一樹)


波上琉歌会 定例会

開催日時=毎月第2土曜13:00~15:00
場所=那覇市首里公民館
問い合わせ
TEL 098―978―4724(前原)

(2024年10月3日付 週刊レキオ掲載)