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前へ 泥くさく戦う 地道に基礎体力強化 レスリング・男子グレコローマン97キロ級 仲里優力<沖縄からパリへ 五輪選考大詰め>3


前へ 泥くさく戦う 地道に基礎体力強化 レスリング・男子グレコローマン97キロ級 仲里優力<沖縄からパリへ 五輪選考大詰め>3 全日本選手権の決勝で鶴田峻大(右)の背後を取り、場外に押しだそうとする仲里優力=2023年12月22日、東京都の代々木競技場第2体育館
この記事を書いた人 Avatar photo 古川 峻

 スタンド(立ち技)で前へと圧を掛け続け、息遣いから相手の消耗を感じた。2023年12月のレスリング全日本選手権男子グレコローマンスタイル97キロ級決勝。差し合いから場外に押し出して2―1でリードした仲里優力(北部農林高―日体大出、佐賀県スポーツ協会)は、膝をつく鶴田峻大(沖縄尚学高出、自衛隊体育学校)に手招きした。「最後までとことんやろうぜ」。県勢対決で宿敵を圧倒して全日本初優勝を飾り、パリ五輪出場が懸かる予選会への道を切り開いた。

 グレコで仲里が最も重要視するのは前に出る力だ。攻防は上半身のみ。桁外れの腕力で組んでくる海外の重量級選手に対抗するため、全身のバランスの良さで相手を押し込み、徐々に体力を削る。試行錯誤の末、行き着いたスタイルだ。

仲里 優力

 全日本選手権の2カ月前のU23世界選手権は、同様に相手の体力を削り、終盤で逆転勝利を収めた。3位になり初めて世界大会で表彰台に立った。「世界で戦える自信が確信に変わった」

 幼少期からレスリングを始めたが、練習が本格化したのは北農に進学してからだ。マット運動や走り込みなど地道な基礎トレーニングを軽量級の選手と同じようにこなし、恩師の屋比久保監督とマットで向かい合った。「中学まで優しかった先生が嘘のように厳しくなった。愛があった」と笑う。高校3年の時に県勢初の高校国内主要大会5冠を達成した。

 転機の一つは、社会人1年目の22年、初挑戦したU23世界選手権だ。日体大時代までは余力を残すような「格好つけた戦い方」(仲里)で試合に臨んでいたが、海外で通用せず7位に。東京五輪では憧れの先輩で、恩師の息子である翔平が銅メダルを取っていた。「日本人が海外選手に勝つ時は地道に体力を削っている」と気が付き、前に出る泥くさい戦い方に徹するようになった。

 ここ1年余りは、さまざまなスポーツに精通する父・孝文さん(50)の助言などを受けて基礎から体作りに励んできた。大学時代から続ける筋量を増やす高重量のウエートトレーニングに加え、相手の連続攻撃に耐えられる持久力や反応速度を鍛えるため、全身の連動性を高める高負荷のトレーニング「クロスフィット」などにも取り組んだ。より俊敏性も強化し「海外選手のパワーに耐えられる体になった」と手応えを語る。

 19日に開幕するアジア予選で2位以上に入れば五輪出場が決定する。逃した場合は5月の世界最終予選が最後のチャンスだが「戦うイメージはできている」と断言する。

 「6分間前に出続ける。僕も苦しいけど相手も苦しい。後は我慢勝負。重量級は厳しいと言われるが、通説を覆せたら面白い」

 目指すのは先輩の翔平のように五輪でメダルを取ることだ。翔平のパリ五輪出場の可能性は断たれたが「屋比久保先生の教え子で、五輪を懸けた世界戦に挑めるのは僕が沖縄で2人目だ」と力を込める。屋比久親子への思いに触れ「後に続くのは自分しかいない。沖縄魂を見せる」と闘志を燃やした。

 (古川峻)


 なかざと・ゆうり 2000年2月26日生まれ。宜野湾市出身。宜野湾中―北部農林高―日体大出、佐賀県スポーツ協会所属。高校国内主要大会5冠。23年U23世界選手権で3位、全日本選手権で優勝した。


 パリ五輪の日本代表を決める選考レースが熱を帯びている。重量挙げはワールドカップが開催されており、終了後の五輪ランキング10位以上が代表に確定する。カヌー・スプリントは18日開幕のアジア選手権で2位以上、レスリングは19日に始まるアジア予選の2位以上が五輪への出場権を獲得する。各競技で選考が大詰めを迎える中、県勢アスリートの取り組みを紹介する。