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レジェンド、かつてない苦境 車いす・陸上 上与那原寛和 残り1枠目指す<沖縄からパリへ>5


レジェンド、かつてない苦境 車いす・陸上 上与那原寛和 残り1枠目指す<沖縄からパリへ>5 世界選手権へ向けて最終調整に励む上与那原寛和=14日、嘉手納町陸上競技場
この記事を書いた人 Avatar photo 古川 峻

 パラリンピックに4大会連続で出場し、東京大会で県勢初の2種目でメダルを獲得したレジェンド、上与那原寛和(SMBC日興証券)がかつてない苦境に立たされている。「これまでは余裕を持って内定を決めていた。追う側になる心境が初めて分かった」。昨年7月の世界選手権(パリ)は400メートル(車いすT52)で5位となり、4位以内に与えられるパラ出場枠を逃した。残り1枠を懸けて、17日開幕の世界選手権(神戸)へ臨む。

 東京大会で銅メダルを得た2種目のうち、1500メートルはパリ大会の正式種目から外れた。400メートルでは、昨年の世界選手権で日本勢3番手だった。上位2人がパラ出場を決め、国内選考は残り1枠とされる。さらに1位はベルギーの若手選手が世界新を塗り替え、新たな選手も台頭している。昨年10月のアジア大会では、狙っていた自己ベスト更新を達成できなかった。

 速さを求めて試行錯誤を繰り返してきたが「やってきたことが全て裏目に出てしまった」。好成績を出せなかった要因は、座る位置をより後ろに修正したことで、ホイールに体の一部が若干すっていたためだ。車いすに乗っている時は分からないが、今年2月ごろにマシンを解体すると跡があり、判明した。それでも「同じことをしていては成長がない。あれこれ試すことは良いこと。このやり方では駄目なことが分かった」と前を向く。

 今年ハンドリムに触れるグローブを新調し、フォームの改良も続けてきた。5月初旬まで、パラリンピックで数々のメダルを獲得してきた盟友の伊藤智也と合宿を実施し、四方から動画を撮影し動きをチェックするなど最終調整は万全だ。「とても良い状態になっている。あれこれやってきたことが今の自信につながっている」と力を込める。

上与那原寛和

 パラ出場が懸かる400メートル予選は20日、決勝は21日にある。風や天候、レーンの位置やトラックのゴム質などあらゆる要素が絡み合ってコンマ1秒で勝負が決まる。決勝へ課題を把握するため、予選から力を存分に発揮するつもりだ。「焦ったら負ける。あらゆる想定に対応できるようにしてきた」と準備に怠りはない。

 県勢が未到の5大会連続のパラ出場へ、内定が出る2位以上を目指す。自己ベストの59秒22を超えれば自然と上位に入ると踏む。挑戦の価値を証明してきた52歳のベテランは「パラリンピックへ向かっていく姿勢や、代表に選ばれることで伝えられることがある。何が何でも代表をものにしたい。いや、ものにする」と断言した。

 (古川峻)


 うえよなばる・ひろかず 1971年5月22日生まれ。沖縄市出身。28歳で交通事故により頸椎(けいつい)損傷し、31歳で車いす陸上を始めた。2008年北京パラリンピックフルマラソンで銀メダル、21年東京パラ1500メートルと400メートルで銅メダルを獲得した。