「やり切った。悔いもない」比嘉大吾、ダウン奪うも世界王座奪取ならず　現役引退示唆

　ボクシングのダブル世界戦が3日、東京・有明アリーナで行われ、世界ボクシング機構（WBO）バンタム級タイトルマッチで同級1位の比嘉大吾（29）＝志成、宮古工高出、浦添市出身＝は、王者の武居由樹（28）＝大橋＝に0―3の判定で敗れた。比嘉は2018年4月以来となる世界戦で、国内最長ブランクとなる6年5カ月ぶりの世界王者の返り咲きと、フライ級に続く2階級制覇を狙ったが、わずかに届かなかった。比嘉は試合後、現役引退を示唆した。比嘉は21勝（19KO）3敗1分け。武居は10戦全勝（8KO）。

　採点発表後にレフェリーが王者の左腕を上げると、比嘉は小さくうなずいた。6年5カ月ぶりの世界戦。王座返り咲きにわずかに届かなかった実感があったのだろう。

　「ボクシングはうまくできていたが、最後までいつもの強引さがなかった（のが敗因）。試合は最初から最後まで楽しかった」

　王者は苦手とされるサウスポーで、身長7センチ、リーチ10センチも上回る。相手の懐に飛び込み、自慢の強打を放つことが勝利への条件。だが、距離を詰めると右アッパーが飛んでくる。自分の距離で戦えない中、左右のフックなどで対抗。11回に左フックでダウンを奪ったが、採点は2人が1ポイント差、1人が2ポイント差。あと一歩届かなかった。

　2017年5月にWBC世界フライ級王座を獲得し、2度防衛に成功。デビューから15連続KOの日本記録を作り、米国進出が視野に入っていたが、18年4月の3度目の防衛戦で計量に失敗し、王座を剥奪された。「引退」の二文字が何度も頭をよぎったが、故郷の親族、ファンからの激励で現役続行を決意した。

　再起後も世界再挑戦への道は開けず、練習でも投げやりな姿が目立った。「きついと途中で投げ出すことがあった」と野木丈司トレーナー。ところが、6月の練習中に「自分に勝つって気持ちいいですね」と笑顔で話し、最大の課題「気持ち」がクリアになった。周囲も、本人も納得の心身で迎えた世界戦でも、ベルトをつかめなかった。

　王座復帰、世界2階級制覇はかなわなかったが、「もう俺はやり切った感じ。悔いもない。吹っ切れた」と引退を示唆した。上京から10年の区切りの年に、比嘉のボクシング人生の終演を迎えることになりそうだ。

　（伊藤隆運動通信員）

武居由樹（大橋）　判定　比嘉大吾（志成）
53・4キロ　　　　　　　　53・4キロ

　【評】強打の応酬は見応え十分だった。武居は頭を下げる比嘉に対し、アッパーを起点に連打で主導権を握る。遠い間合いのまま、足を使う冷静さもあった。11回に左をもらってダウンを喫したが、最終12回にラッシュを浴びせ接戦を制した。比嘉は強振の左フックを軸に攻め込む場面もあった。ただ攻撃パターンが単調になり、小差で勝機を逃した。