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無意識の体の記憶<伊是名夏子100センチの視界から>168


無意識の体の記憶<伊是名夏子100センチの視界から>168
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 沖縄もインフルエンザがはやっているそうですが、私も子ども2人と一緒に、インフルエンザB型に罹患しました。本当にきつかったです。昨年秋にA型になりましたが、その時よりもはるかにきつく、子どもも私も39度の熱が3日続き、だるさもなかなか取れず、今でも脇の下のリンパ節が痛いです。

 熱にうなされながら、昔、おばあちゃんがすりおろしてくれたリンゴがおいしかったこと。トイレにはお父さんが抱っこをしてくれ、頭に置いてもらった冷たいタオルが気持ちよかったこと。そしてお母さんが作ってくれた、かつおだしで取ったスープを飲むと体が温まったこと。普段は忘れていたことを次々に思い出し、熱の体が持つ記憶だな、と思いました。

 先日、小学校で講演をした時のことです。「骨折を何度も繰り返しているので、痛みに強いですか?」という質問が出ました。私はその逆で痛みに弱く、人が痛がっているのを見ただけで、私も耐えきれなくなります。歯医者さんで歯を削る音を聞くと、骨折の時に巻いていたギプスを切る音を思い出し、体中が固まります。小さい頃は週3回注射をしていたのですが、今は本当に注射が苦手で、針を刺す前が一番怖いです。痛みに関連することには過剰に反応してしまい、どっと疲れます。そして年を重ねるごとに、どんどん痛みに弱くなっている気がします。

 人は実際に痛くはなくても、過去に感じた痛みを脳が覚えており、痛いと感じてしまうことがあるそうです。だからリアルな痛みは、初期の段階から薬で抑え、なるべく取り除く方がいいと言う考え方もあります。骨折、手術、治療を繰り返してきた私の体の痛み記憶量は、相当なものではないかと思います。痛みが記憶に残るからこそ、人は誰でも子どもの時から、気持ちがいいことをたくさん重ねて、幸せだと感じる瞬間を意識的に作っていくのは大切でしょう。

 ただ親としての私は、今回、発熱中の子どもたちにしてあげたことは何もありません。隔離が大事なので一緒に過ごすことはせず、普段は時間制限を設けているタブレットを自由に使わせ、何かあったらテレビ電話をし、ゼリーやジュースをあげました。もう少し手当をして、子どもにも気持ちのいい記憶を残せてあげたらよかったかな、とも後悔しました。代わりにこれから、自然の中で遊んで、体を動かしたり、気持ちのいい記憶を作ったりしていけたらと思います。


 いぜな・なつこ 1982年那覇市生まれ。コラムニスト。骨形成不全症のため車いすで生活しながら2人の子育てに奮闘中。現在は神奈川県在住。