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スプーンから代替肉まで 産廃だったおからに高付加価値を 崎濱花鈴さん(Okaraokara代表)


スプーンから代替肉まで 産廃だったおからに高付加価値を 崎濱花鈴さん(Okaraokara代表)
この記事を書いた人 Avatar photo 熊谷 樹

沖縄のソウルフード・島豆腐。その島豆腐を製造する過程でできる〝おから〟は、健康志向の高まりを受けて注目されている食材だ。しかし、食用として活用されるのはわずか1%。沖縄県内だけでも年間1000トンも廃棄されており、その処理費用が豆腐屋の経営を圧迫している。

大学時代に豆腐屋の課題に触れたOkaraokara代表の崎濱花鈴さん(24)は、おからの価値を高めようと、おからで作った食べられるスプーン「Pacoon(パクーン)島おから味」を開発した。廃棄されてきたおからを資源として活用することで豆腐文化を守り、沖縄経済を支えるシステムの構築を目指している。

(デジタル報道グループ・熊谷樹)

 食品ロス削減×経営改善×脱プラ=食べられるスプーン

食べられるスプーン「Pacoon(パクーン)島おから味」を前に笑顔の崎濱花鈴さん=2月6日、沖縄市中央のLagoon KOZA

崎濱さんは大学3年生で参加した世界最大級の学生ビジネスアイデアコンテストをきっかけに、おからの廃棄問題を知った。そのときのテーマは「食で世界を良くしよう」。肉を使わないペットフードの原料としておからに着目し、実際に県内各地の豆腐屋をめぐり店主に話を聞いた。

そこで、1日2トンものおからが廃棄され、売り上げが処理コストに追いつかない現状を知る。特に大豆を生のまま絞って作る本格的な島豆腐のおからはすぐに傷んでしまう。日々の処理費用に追われ「自分の代で店を畳むつもりだ」という店主の言葉に「豆腐文化が衰退するのではないかという不安に駆られた」という。

おからのロス問題について沖縄県内の豆腐屋をまわりインタビューを重ねた=2020年(崎濱さん提供) 

「できる限りのことをしたい」。活動趣旨に賛同した同級生の知念杏珠さんとともに、コンテスト終了後も「おからロス問題」に関わり続けることを決意。共に「Okaraokara」プロジェクトを立ち上げた。「おからを廃棄物から資源に変えることで、フードロスと豆腐屋の負担を解決したいと思った」と振り返る。

大学4年次に沖縄の人材育成プログラム「琉球Frogs」メンバーに選抜され、おから問題の解決に向け本腰を入れる。おから入りのペットフード、麺、パン、クッキー、ヒラヤーチーにちんすこう-。自宅のキッチンで商品開発に取り組み、おからの利活用を模索する中、海洋プラスチックごみの問題に取り組む仲間の「プラスチックのリサイクルも大切だが、プラスチックがない社会のほうがいい」という言葉が大きなヒントとなった。アイデアを膨らませ、豆腐屋の経営圧迫とフードロス、プラスチックごみという三つの問題解決に寄与する「食べられるスプーン」にたどり着いた。

勤労食の協力を得て完成した「Pacoon(パクーン)島おから味」。累計2万本近く販売した

野菜パウダーを練り込んだ可食スプーンを開発する勤労食(愛知県)の協力を得て、2021年10月に「Pacoon(パクーン)島おから味」が実現した。使用したのは沖縄市の豆腐屋「川上食品」から仕入れたおからパウダーだ。最初に発注した2000本は口コミで3日で完売したという。

冷たいかき氷やソフトクリーム、あつあつのカレーライスに使っても崩れることなく、クッキーのようにおいしい。県産おから使用というインパクトと見た目のかわいらしさが評判を呼び、今では環境や健康への意識が高い飲食店などから月1000~2000本の注文がある。崎濱さんは「なぜおから?という疑問から、社会課題について知ることができる商品。おからのイメージアップにもつなげたい」と広がりに期待を寄せる。

パフェやかき氷に使っても最後まで崩れることなく使える。ふわっと大豆が香る優しい味が魅力だ=3月7日、那覇市久茂地のSOYSOY(デパートりうぼう店)

 おから問題解決を本業に

2021年秋、崎濱さんは学生ベンチャーとして忙しい日々を送る中、就職活動にも力を入れていた。「もともとOkaraokaraの活動は副業をして続けていくつもりだった」。パクーンの商品化は実現したが、課題解決はほど遠い。同年6月にはHACCP(ハサップ)が義務化され、豆腐屋を取り巻く状況はより厳しくなっていた。

「私がしていることは本当に豆腐屋さんのためになっているのだろうか」「廃業を考える事業者もいる中で副業で関わるのは失礼ではないか」

悩んでいたときに社会問題をビジネスで解決するボーダーレス・ジャパンと出会う。同社は社会起業家としてのノウハウを学び、起業支援を受けることができる会社だ。「ここでOkaraokaraの活動をしたい」。新卒起業家採用で入社が決まった。

入社1年目で新卒だけで革製品OEM事業を立ち上げた後、社会を良くするソーシャルグッドに特化したクラウドファンディング事業「for good」の運営に携わった。学生時代にバイト代をつぎ込んでOkaraokaraの活動を行ってきた崎濱さん。「社会的リソースのない人でも挑戦できる社会が必要だ」と改めて実感したという。

ボーダーレス・ジャパンでは同社の支援を受けて起業した社長全員が事業プランを承認することで、創業資金を受け起業することができる。Okaraokaraは2023年12月、50社目の事業として独立することが決まった。

 循環型経済で沖縄を元気に

現在、パクーンを販売するとともに、家庭でのおからの使用を増やそうと、おから味噌やスイーツづくりなどのワークショップを定期的に開催する。おからを加工した代替肉「島おからミート」の開発にも挑戦中だ。代替肉を加工する機械を導入し、県内で製造できる環境を整えたいという。

読谷村のカフェで開催したおから味噌づくりのワークショップ。右端が崎濱さん(崎濱さん提供)

Okaraokaraが県内での加工にこだわるのには理由がある。ひとり親家庭で育ち、相対的貧困家庭の選択肢の少なさ、教育機会の格差を実感してきた崎濱さん。子どもの貧困を解消するためには沖縄の経済を強くする必要があり、そのためにも地場産業の強化が欠かせないと考えている。

島豆腐を作る過程で出たおからを県内で加工することで資源が地域内で循環し、地産地消が促進される。廃棄おからの資源化により豆腐屋の経営が上向き、豆腐製造を盛り上げることができる。加工技術の導入で、おから以外の廃棄物の加工も可能となり、新たなビジネスチャンスと雇用が生まれる。

社会課題を解決しながら沖縄経済に貢献できるビジネスモデルの構築を目指す。

「貧困や基地問題など沖縄の抱える問題は根深い。でも目の前の課題から一歩ずつ取り組んでいきたい。地域資源を活用し、沖縄の人に還元できる仕組みが作れたら」と未来を見据えた。

崎濱花鈴 – Karin Sakihama – 株式会社ボーダレス・ジャパン/Okaraokara

沖縄県名護市出身。大学生時代に参加したビジネスコンテストをきっかけにOkaraokaraという団体を立ち上げ、沖縄県のお豆腐屋さんを支え島豆腐を守る活動を開始。琉球大学人文社会学部卒業後、新卒で株式会社ボーダレス・ジャパンに入社しバングラデシュの革製品OEMの新規事業の立ち上げに参画。現在はクラウドファンディングForGoodに関わりつつ、おから事業を立ち上げ中。