小学3年から始まる書写の毛筆の授業で「左利きの子も右手で筆を持っているの?」という声が愛媛新聞「真相追求 みんなの特報班」(通称・みん特)に届いた。左利きでも「鉛筆や箸は右で」と子どもに練習させる例は減っているようだが、筆に関してはどうだろうか。学校や習字教室での指導の現状を調べた。
愛媛大教育学部で書写書道を担当する東賢司教授に、学校教育でのルールがあるのか尋ねた。答えは「筆を左右どちらの手で持つか、明確な記載はありません」。学習指導要領や教科書には、硬筆も毛筆も、利き手に関する記載はないという。
ただし、小学校の教科書は鉛筆も筆も「持ち方」について写真付きで解説しているが、「ほとんどの教科書で右利きを念頭に置いている」のが現状だ。
「左手での毛筆は書きづらい」と東教授。小学校で学ぶ漢字の書体「楷書」は、毛筆を基礎とする。例えば横画は「筆を左斜め45度に入れ、右横に運び、押さえて左上に取り上げる」動きで「右手で書くのに都合よくできている」。先端が硬い鉛筆では書けても「止め、はね、払いといった筆運びは左手では難しい」と指摘した。
しかし、左利きの児童にとっては、利き手と反対で不慣れな筆を扱うのもまた困難で「毛筆嫌いになるかも」。東教授は「授業時間は少ないのだから、まずは毛筆に親しむことを大切にしてほしい」と期待する。
実際、左手で書く児童に配慮した教科書が登場している。東京書籍では、小学3年書写の教科書で左手で筆を持つ場合の用具の配置を紹介。手本を半紙の右に、筆置きを左に置くよう示している。
東教授の授業を受け、教員を志す愛媛大大学院2年河野亜美さん(24)と岡田優佳さん(24)が左手での毛筆を実演してくれた。2人とも右利きだ。用具は普段と逆に、半紙は少し斜めに置くなど「工夫すれば意外と書ける」とにっこり。東教授も「左手でも上手に書けるものだ…」と感心していた。
岡田さんは左手で毛筆の手本を示す動画教材を作り、実習校で左利きの児童をサポートした経験があり、「利き手にかかわらず丁寧に筆を動かす学習は十分できると感じた」。東教授は「どちらの手でも良し、本人の意思を尊重するのが最近の傾向だろう」とみている。
松山市内の習字教室で30年子どもらを指導している女性(60)は「左利きの子には、書きにくい説明はするが、右手で筆を持つよう強要はしていない」。鉛筆は左だが、筆は右で挑戦して習得できた子がいれば、筆も左で練習している子がいる。右利きに変えるよう親が望んでも「利き手でないと筆圧が出ず、どうしても書けない場合がある。結局は本人次第です。左利きも個性ではないでしょうか」。(豊田さやか)
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