世界のソムリエ 田崎真也が沖縄・石垣で見つけた生き方


世界のソムリエ 田崎真也が沖縄・石垣で見つけた生き方
この記事を書いた人 佐藤 ひろこ

 ワインと言えばこの人! 1995年に日本で初めて世界最優秀ソムリエに輝き、現在は国際ソムリエ協会、日本ソムリエ協会で共に会長を務める田崎真也さん(58歳)。18年前に沖縄・石垣島を訪れたことで、自身の生き方が大きく変わったそうです。那覇市で11月に開かれたワインイベント「Wine Festa in Okinawa 2016」(日本ソムリエ協会沖縄支部主催)のために来県した田崎さんに、沖縄との出合いや仕事との向き合い方についてお話を伺いました。

仕事、仕事、仕事…の日々に出合った石垣

ソムリエの田崎真也さんが生き方を変えるきっかけとなった石垣島の海。海の向こうにうっすら見えるのが竹富島=2016年11月(撮影・謝花史哲)

―沖縄との出合いのきっかけや印象的なエピソードをお聞かせください。

 初めて沖縄に来たのは1993年、日本ソムリエ協会沖縄支部の設立の時に講師として参加したのがきっかけです。そのときはセミナーの講師だけをして帰りましたが、3回目ぐらいだったかな、98年に来たときに1日だけ休みがあったんです。「そういえば、沖縄に来ているのに海を見ていないな」と思い、土地勘がないので那覇で海が見られるとも思わず、「石垣か宮古に行こうかな」と思って飛行機に乗って石垣島に行ったんです。街に行くと、もう目の前に竹富島が見えて…海がきれいで…驚きました。

―世界最優秀ソムリエコンクールで優勝されたのが95年。98年というと、かなりご多忙な時期だったのでは?

 そうですね。95年に優勝した後は取材や講演が毎日続いていたので、沖縄で1日休みがとれるまで、ほとんど休みがなく、ずっと仕事、仕事、仕事でした。随分休んでいない中での休暇だったので、のんびりしようと船を借りて釣りをしました。それがきっかけで、釣りが好きだったことを思い出したんです。コンクールで優勝するまでも、休みがあればソムリエのトレーニングを重ねるという生活を十数年過ごしていました。もう随分と長い間、仕事、仕事、仕事だったので、ちょっと石垣に通ってみようかなと思い、すぐその年に貸別荘を借りて2週間過ごしました。その次に来た時には、竹富島が見えるマンションを即決で借りましたね。

 もともと食べるのが好きで、釣りも食べるのが目的。そうすると自分で作りたいと思っちゃうんです。マンションを借りてからは、服も釣り道具も置きっぱなしですから、思いたったらすぐにぶらっとカバン一つで羽田から石垣に来られる。マンションを持っていた8年ほどは、年に4~5回は石垣に通っていました。

「人生を楽しむ」 価値の転換

―石垣島の何が田崎さんを引きつけたのでしょうか?

 石垣に来ているうちに、人が生きるために描く目的は、仕事を頑張ることじゃない、仕事はプロセスだと感じるようになったんです。人はやっぱり、人生を楽しむために生きることが理想なんだと。たまたま空いた休みで石垣に来るのではなく、「石垣に行くために休みを取る」「そのために働く」という考えに変わったんです。まず休みありきで、そのために一生懸命に働こうと。

―働き方、生き方への価値観が変わったんですね。

 そう、転換期になったということです。そのころに「オン」と「オフ」の考え方を変えたんです。
    
 一般的に「オン」は仕事、「オフ」は休み。でも、本当は逆じゃないかと。「オン」が休暇で、「オフ」が休暇を楽しむための充電=仕事なんだと。充電はやっぱり、一生懸命に充電した方が「貯まる」わけですよ。仕事を一生懸命して、つらい時間を過ごすことで、楽しいという感覚が2倍にも3倍にも倍増するし、つらい仕事を一生懸命するからこそ、お金も「楽しみたい」という欲求も“貯まる”。それで「オン」の時に充電したものを使うわけです。そう考えると、一般的な「オン」「オフ」は逆になるんです。

―そう考えると、どんな仕事も楽しめるようになりますね。

 いや、仕事は楽しんじゃいけないんですね。「オフ」なんで。楽しみは取っておかないといけないんです。特に僕たちの仕事は、お客さまに楽しんでもらうのが仕事なんで、僕たちが楽しんじゃいけないんです。

―なるほど。仕事は楽しんじゃいけないんですね。じゃぁ田崎さんは、仕事をしている時は…

 楽しくないですね(笑)。早く終わって飲みに行きたいって思っています(笑)。

―逆転の発想ですね。そんな人生の転換期となったのは何歳のときですか? 昨今は楽しいことを仕事にしようという風潮もあります。

 転換期を迎えたのはちょうど40歳ぐらいですね。優勝したのが37歳の時だったので。

 (最近の人は)仕事を楽しみたいっていうけど、僕は違うと思います。仕事は一生懸命、つらいぐらいに追い込んだ方がいいですね。その方がいい仕事ができると思います。長いスパンで考えると、特に若い時期はずっと充電でいいと思います。リタイアするまでの65歳までは充電期間、65歳からが本当のオンになると考えています

ワインと合うアレンジを楽しむ

沖縄への思いや仕事への向き合い方について語る田崎真也さん=2016年11月14日、那覇市のANAクラウンプラザホテル沖縄ハーバービュー

―話は変わって。沖縄の季候や風土に合うワインの楽しみ方を教えてください。

 う~ん。そうですね…(長い沈黙)。やっぱり沖縄の季候には泡盛が一番合うし、沖縄の伝統料理には泡盛が一番合う。僕は石垣にいたころ、ワインって1本も家になかったですよ。ワイングラスさえなく、泡盛を飲むための琉球ガラスしか置いてなかったです。泡盛のコレクションはいっぱいありましたけど。

―え~、それは意外なお話です!

 そうですか? ワインもそうですが、その土地にいったら、その土地の飲み物が最も合うようにできているんで、それごと楽しむのがその土地にいる楽しみだと思います。そこの伝統や文化を吸収しながら楽しむということです。その方が、地域の人とのコミュニケーションも図りやすいですしね。

 僕はワインが好きで仕事をしているわけではないんですよ。好きとかいう次元じゃなく、仕事ですから。ただ、職業として、料理とワインの相性とか、料理と酒の相性を考えるのが仕事なので、プライベートの楽しみにも応用ができます。

―では、例えば、ゴーヤーチャンプルーにはどんなワインが合いますか?

 そりゃ泡盛でしょ。

―そこをあえて!

 泡盛しか飲まないですよ(笑)。………まぁ~、ごく一般的な味付けだと、すごく爽やかなスタイルのスパークリングワインがおいしいですかね。

―ラフテーはどうでしょうか?

 ラフテーは甘すぎてですね。あれはやはり、クラシックな泡盛が一番おいしいですね~。もともと伝統的なラフテーには泡盛を使います。料理に使っている酒と同じタイプの酒を飲むというのが基本中の基本です。もしラフテーにワインを合わせるとしたら、煮詰める途中で調味料としてワインを加えた方がいいですね。そうすると合わせられる。

―気候風土に合わせた酒は、その土地の酒が最適だというご指摘はごもっともですが、沖縄でもワイン愛好家が増えてきました。何かメッセージを。

 伝統料理とワインの相性もそうですが、沖縄だからこそ創造できる食卓があります。「伝統料理そのまま」ではなく、このワインを飲むんだったら、いつもの伝統料理をどうアレンジしたらワインに合うか、とクリエイトしていくことができる。料理は自由自在ですから、料理に酒を合わせるより、酒に料理を合わせる方が理にかなっているんです。料理は食べる瞬間にも味を変えられるけど、その時に飲みたい酒は決まっていて、しかもその味を変えるなんて無理ですから。酒に料理を合わせた方がいい。

―お酒に合わせて料理を作る。とてもクリエーティブですね。

 火を通す料理であれば、ワインを調味料としてプラスして使うという、一番分かりやすい方法があります。そうするとワインの酸味が加わり、甘味度合いが下がるんで、テビチなんかとも合わせやすくなる。沖縄に住み、その人のテイストを考慮しながら、飲み物に合わせて、その都度料理を考え、アレンジしていくというのも、楽しみの一つじゃないでしょうか。

◆この記事を書いた人

 佐藤ひろこ(さとう・ひろこ) 琉球新報Style編集部。北部支社報道部、社会部、NIE推進室、文化部などを経験し、特に子どもを取り巻く諸問題に関心を持って取材してきました。大阪府出身。小6、小3、4歳の子育て中。目下、「働き方」「生き方」の見直しに挑戦中です。