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「嫌だと思ったことは口にしていい」性被害とパンプス強制を経験して気づいたこと


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕
「職場でのパンプス強制をやめてほしい」という署名活動をしている石川優実さん=3月7日、東京都内)

石川優実さんが #Ku Tooに込めた願い

「#KuToo 職場でのパンプス、ヒールを強制しないで」とインターネットの署名サイトで署名を集めている女性がいる。グラビア女優でライターの石川優実さん(32)。「なぜ性別の違いで履く靴を強制されないといけないの?」と疑問を投げかける。

長時間パンプスを履いて足がパンパンにむくんだり、ひどい靴擦れができたりした経験は多くの女性が一度はあるだろう。でも言われてみれば、なぜ女性だけ?「当たり前」に潜む差別、暴力性について石川さんと考えた。

玉城江梨子(琉球新報社編集局記者)

見た目の「美しさ」を求められる女性たち

「パンプスきつい。なぜ女性だけ?」
きっかけはツイッターでの何気ないつぶやきだった。「私も」「みんなそうなんですね」。次々にツイートが広がった。

靴と苦痛を掛け合わせた「#KuToo」というタグもでき、職場でパンプスをはかなければならないことで、苦痛を感じている人が思いを発信しだした。「こんなに多くの人が思っているなら」と職場でのパンプス強制を禁止するよう厚生労働省に求める署名を始めた。

葬儀の案内のアルバイトをしている石川さん。葬儀や通夜が滞りなく執り行われるように参列者を案内するのが仕事だ。動き回る仕事はパンプスではきつい。

パンプスは人によっては外反母趾になったり、靴擦れしたり、腰に負担がかかったり、健康に害が出ることがある。さらに、石川さんの場合、葬儀の間は静かにしないといけない。しかしパンプスで歩くとどうしても「コツコツ」と音がなってしまう。

「誰かが声を上げることで、ほかの誰かも声を上げやすくなる。何かを変えるには仲間が必要」と力を込める石川さん

「嫌なら履かなければいい」「自分にあう靴を探せばいい」「私はヒールを履きたい」という意見も寄せられる。それに対し石川さんは「問題にしているのは性別によって履く靴に違いがあるのはなぜか?という性差別」と説明する。

パンプスは見た目は美しいが、動き回る仕事をする上で機能的とは言えない。それなのに、パンプスを強制される。石川さんに寄せられるパンプス強制の例はファミレスの店員、ホテル従業員など接客業が多いという。そこからは「女性は見た目が美しくなければならない」という価値観が透けて見える。

誰かの勇気が他の誰かの勇気につながる

石川さんは過去に自分が受けた性被害を実名で公表している。

あまりに露出が多いグラビアの仕事は嫌だと訴えても「これぐらいきわどいことをしないと仕事はない」。性被害を相談しても「自分でついていったんでしょう。そんな世界と分かって進んだ道でしょう」と言われた。「今思えばセカンドレイプだったけど、あの時は『私が悪い』『仕方ない』としか思えなかった」

2017年、ブロガーのはあちゅうさんが自分の受けたセクハラを告発した。記事を読んで「嫌でもそうせざるを得なかった状況は私と同じだ。私は怒っていいんだ」と初めて知った。はあちゅうさんの勇気ある告発に石川さんも勇気をもらい、自分がされたこと、その時の気持ち、そしてなぜ今それを公にするのか―をインターネット上で発信した。

#Metoo「私も。」
https://note.mu/ishikawa_yumi/n/n1e73ecf608d1

誹謗中傷、批判も寄せられた。でも「私もそうなんです」という声も寄せられた。

「誰かが声を上げることで、ほかの誰かも声を上げやすくなる。声を上げただけでは社会は変わらないかも知れないけど、あげないと何も始まらない。そして何かを変えるには仲間が必要」と力を込める。

基地問題と#MeToo、#KuToo

「自分が嫌だと思ったことは口にしていい」。#Me Tooと#Ku Tooに共通するのはこのことだ。

スニーカーを履いている石川さん

父親が沖縄出身の石川さんは沖縄が抱える問題にも関心を寄せてきた。辺野古埋め立てに反対するホワイトハウスへの請願署名にも賛同した。「基地問題と#Me Too、#Ku Tooは似ている。基地問題は沖縄の問題ではなく、日本全体の問題。セクハラも女性だけの問題ではない。本当は誰もが当事者の問題だけど、多くの人が気付いていない」と指摘する。

#MeTooに関わるまで、「日本は男女平等。差別なんてあるの?」と思っていた。でもジェンダーを学ぶうちに、自分の周りにある問題に気がつくようになった。SNSでも社会問題についてつぶやくこともある。すると「意識高い系?」と揶揄されることもある。

「政治や社会に対して自分の意見を言うのをタブー視する傾向が日本にはある。それは『和を尊ぶ』という価値観や『空気を読む』ことが重んじられているからではないか。みんな同じという教育で、違和感を抱いてもみんなと同じことをするのが習性になってしまっているのでは」と分析する。

「こうするしかないと諦めるのではなく、自分がもやっとしたことは声に出してみる。主体的に考える。1人1人が自分の頭で考え、自分の意見を言うことで、世の中は少しずつよい方向に変わっていくのではないか」と期待している。

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