沖縄の企業で働く女性の現状や課題を調べようと、沖縄県経営者協会・女性リーダー部会が「かふーあがちゅんプロジェクト」として「働く女性の意識調査」を実施し、11月5日に成果を共有するシンポジウムを那覇市内で開催した。
そこで示されたキーワードは、「女性活躍」ではなく、「誰もがやりがいを持って働ける社会」だった。調査結果とシンポジウムの内容を一部紹介する。
「女性活躍」って言うけれど…
沖縄県経営者協会には沖縄の経済を牽引する主要企業が加盟しており、沖縄の財界には影響力のある組織だ。下部組織の女性リーダー部会で2018年度の部会長を務めるのは、富原加奈子りゅうせき商事社長。今回のプロジェクトの発起人でもある。
参考記事:「今だからこそ、働き方改革」りゅうせき商事社長 富原加奈子さん
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-440008.html
「国や経済界が叫ぶ『女性活躍推進』『働き方改革』って、本当に現場で働いている女性が求めている施策になっているのかしら。沖縄と全国では女性たちを取り巻く環境も、抱えている課題も違う。女性を応援したいという県内企業の取り組みと、女性たちが求めていることのミスマッチを埋めていかなきゃ、もったいないと思うの」
2018年春、富原部会長のそんな一言で「かふーあがちゅんプロジェクト」は動き始めた。
沖縄で働く女性が望む「女性活躍推進」とは何か、女性たちが働きやすい職場環境や社会をつくるためには、どのような環境整備が必要なのか-。そんな疑問を浮き彫りにしたいと、同プロジェクトは同協会の会員企業約300社で働く女性を対象にアンケートを実施し、1172人が回答した。
※「かふーあがちゅんプロジェクト」
沖縄の言葉で「かふー」は幸せ、「あがちゅん」はよく働く・はかどるという意味があることから「幸せな働き方を」という思いを込めて命名された。
※アンケート調査は沖縄県経営者協会の加盟企業約300社で働く女性から1172件の回答を得た。回答期間は9月3〜28日、パソコンやスマートフォンなどからウェブアンケートで実施した。質問項目は、職場環境に対する満足度や残業時間、働き方改革の取り組みなどで、有識者らからの意見も踏まえ、質問項目を設定した。
調査結果から見えたこと
☆長時間労働は減っている
調査結果からは、長時間労働はかなり抑制されていることがうかがえた。残業が月30時間未満という人は8割に上り、働き方改革も6割の企業で実施している。人手不足の解消のためにも、各企業が労働環境の改善に取り組んでいることが分かった。
☆「属人化」「給与」「人手不足」に不満
職場の環境に満足している人が7割おり、「意欲の高い人が周囲に多い」と答えた人の9割が、職場環境に満足している。一方で、満足している人も含めて、不満な点については「仕事が属人化している」「給与」「慢性的な人手不足」「男性主体の働き方が根付いている」などが上がった。長時間労働になりがちな「属人化」や「男性主体の働き方」が風土として残っている企業もある。
☆6割以上が自社の「働き方改革」認識
働き方改革は64%が「行っている」と回答しているが「分からない」とする人も27%おり、組織内でのコミュニケーションに問題が潜んでいる可能性がある。
☆「働き方」に多様な選択肢を
会社に取り組んでほしいことは「多様な労働時間」「働き方を選べる環境」が上位を占めた。フレックスタイムや時短勤務などの導入で働きやすさを求めている人が多い。
☆社内外のコミュニケーションを
「スキルアップに取り組んでみたい」と前向きな意欲を示している人が、すでに取り組んでいる人(26%)も含め9割以上いる。意欲的な人が多い一方、その他の回答には「子育て中だが、仕事が軽い」という意見もあり、組織の好意的配慮が本人のやる気をそいでいる可能性もある。
外部研修や異業種交流の機会を求める声もあり、女性は外部との接点が少ないことがうかがえる。社内外のコミュニケーションを図ることで、働く意欲が高まる効果が期待できる。
☆根深い「給与」への不満
給与については、回答者の78%が正社員で勤続年数10年以上が52%と中堅が半数を占めるが、年収200万円未満が23%、300万円未満が30%だった。一人当たりの県民所得216万円(2015年)よりは多いが、回答者の35%が不満を抱いている。
146人の“本音”に改善の糸口がある!
「育児や介護、家事は女性の役割という認識がなくなればもっと働きやすくなる」
「女性は何も言えない、言いづらい環境で、悩んで苦しみ諦めている」
「働く女性の意識調査」では146件もの自由意見が寄せられた。そこには数値からは見えない女性たちの“本音”が浮かび上がった。女性が働きやすい環境づくりには「男性の働き方から変える必要がある」と、構造的な変革を求める意見が多数上がった。
意欲的に働く女性が多いものの依然、子育てや介護と仕事との両立に苦しむ意見は多数見られた。
ある女性は「家事・子育てと仕事の両立に追われる生活で、スキルアップの取り組みは後回しになりがち。男性と同じ成果を求められる仕事は、うれしい反面過酷」として、「年に1度の自己評価の内容は自己嫌悪に陥るばかりで、相変わらず男目線一辺倒だと思う」と胸の内を明かした。
旧態依然とした男尊女卑的な考えや慣習を訴える声も複数あった。
「男尊女卑。女性の意見が通らない」
「男性役員は若手や女性が物申すといい顔をしない」といった意見の一方、
「女がお茶を出すなど、女性の中に風習的に根付く男尊女卑感は否めない」との指摘もあった。
「県内の平均的な賃金では女性が一人で生きていくには安すぎる」との声や、正規雇用と非正規雇用の格差への不満も多かった。
業務の属人化に対する不満も多く、「業務の共有化や人員の確保も大きな課題」などの指摘も。
寄せられた女性たちの声に、「女性活躍」と「働き方改革」のヒントが詰まっている。
女性に特化せず改革を(調査の解説)
今回の意識調査は、沖縄では比較的大手が加入する県経営者協会加盟企業が対象で、働く全ての女性の意識を反映したものではない。しかしこれまでにない大規模な調査で、県内で働く女性の現状を浮き彫りにした意義は大きい。
結果から見えてきたキーワードは「女性活躍」ではなく「誰もがやりがいを持って働ける社会」だ。育児中の女性に着目して時短休やフレックス(出退時間を選択できる制度)を設けても、周りの独身女性や男性らにしわ寄せが来ては、職場環境は良くならない。
入社10年以上の中堅の回答者が半数いるにもかかわらず、回答者全体で役職のない一般社員が47%、主任・係長クラスは21%だった(課長以上11%、非正規雇用16%)。
優秀な人材が配慮からか能力を発揮できていない可能性がある。もしくは猛烈に働く役職者を前に、女性自ら責任ある仕事を敬遠しているのかもしれない。
背景には仕事の質よりも、長時間労働が可能な人材が評価されるような企業文化がある。男女問わず誰でも定時に帰れ、能力が発揮できる職場環境を整えることが必要だ。それなしには女性の活躍どころか、新たな人材確保も難しい時代になっている。
※さらに詳しい調査の結果は、沖縄県経営者協会のホームページで確認できます。
☆沖縄県内における働く女性の意識調査 (https://drive.google.com/file/d/1Iplr0_IMYi0DYSp7K26eiLiFrX_TO50v/view)
相談窓口やIT導入補助金など活用を
シンポジウムに出席した沖縄総合事務局中小企業課企画支援係長の鶴見有衣さんは、「民間企業による団体が『女性の働き方』について主体的に調査に取り組んだ意義は大きい。生産性を向上させ、長時間労働を前提とした働き方が変われば、女性が活躍する機会は格段に上がる」と指摘する。
さらに「今回の調査とシンポジウムは、経営者と社員が共に社を成長させていくための接点を模索する契機になったのでは。国では相談窓口設置やIT導入補助金などさまざまな支援策を準備している。経営者に働き方改革と生産性向上に向けた第一歩を踏み出していただきたいと呼び掛けた。
◇記事:知花亜美(琉球新報文化部)、佐藤ひろこ(琉球新報Style編集部)
※2018年11月11日付の琉球新報紙面を一部加筆修正しました。