<金口木舌>旧正月と豚


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 沖縄戦を体験した世代が語る旧正月の思い出に豚がちょくちょく登場する。正月料理に豚は欠かせない。残った肉は塩漬けにして保存し、大切に食べた。「鳴き声以外は全て食べる」とは、沖縄の食文化を象徴する話

▼農家は正月のために豚を飼った。大みそかが近づくと、農家が集まって豚をつぶした。鳴き声があちこちで響いたという。大人だけでなく、子どもたちにとっても豚肉料理は年に一度のごちそうだった
▼豚の病気が広がっている。これまでに9千頭余の豚が処分された。懸命に豚を育ててきた養豚業者や殺処分に携わる方々の心情を思うと胸が痛む
▼これまでも豚の病に悩まされてきた。歴史は長い。1909年4月から5月にかけて「豚疫」の文字が本紙に頻出する。5月、農商務省の技師、奥田金松が調査のため沖縄入りした。首里での講演で明かした豚の病名は「豚虎列刺(コレラ)」
▼予防策は発生地から豚を買わず、豚舎の消毒を。病を媒介する恐れのある売人の出入りに注意すべし、というもの。首里区長は「奥田技手の講話を本県語に解し易(やす)く予防法を説き―」とうちなーぐちへの翻訳を求めている
▼そーき汁、中身汁、あしてぃびち、らふてー。県民に親しまれてきた豚料理がいくつも浮かぶ。沖縄の食文化を守りたい。まずは風評被害を防がねばならない。もうすぐやってくる旧正月の誓いとする。