<金口木舌>忘れないことが最大の支援


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 自然の猛威が日本中を襲った9年前の3月11日。津波に襲われた福島県いわき市立豊間中学校の体育館のがれきの中から、グランドピアノが救い出された。その後、調律師・遠藤洋さんの手で修復され、よみがえった

▼「奇跡のピアノ」と呼ばれ、国内外70カ所以上で演奏されてきた。1月に琉球新報ホールで奇跡のピアノを迎えたコンサートがあった。ソプラノ歌手・寺島夕紗子さんが披露した「さとうきび畑」の最後の歌詞は「この悲しみは消えない」。震災・原発事故の苦悩と重なり涙を誘った
▼被災地の復興、生活再建は道半ばだ。岩手、宮城、福島3県ではプレハブ仮設住宅に700人以上が住み、全国で4万7737人が避難生活を続ける
▼被災した42市町村中9割で人口が震災前に比べ減った。東京電力福島第1原発事故の廃炉・汚染水対策に加え、被災地全体では住まいの確保やコミュニティーの希薄化などの課題も山積する
▼新型コロナウイルスの感染拡大の懸念を受けて、政府の追悼式が中止になった。見えない脅威の対応に日本中が追われ、大震災の記憶がかすんでいくようで気になる
▼奇跡のピアノを取材しているフリーアナウンサーの大和田新さんは「忘れないことが最大の支援」と言う。復興の歩みは長く険しい。それぞれの置かれた場所でできることはあるはずだ。被災地の苦悩を心に刻み考える。