<金口木舌>感謝状の誓い


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 今年8月の長崎市平和祈念式典で印象的な場面があった。田上富久市長が平和宣言で、つらい体験を語ってきた被爆者に敬意と感謝を込めて「拍手を送りましょう」と会場の参加者に呼び掛けたのである

▼拍手は約10秒ほど続いた後、田上市長は「この拍手を送るという、わずか10秒ほどの行為によっても平和の輪は広がります」と続けた。感謝の拍手は平和の輪を広げるための行為でもあった
▼拍手が被爆者の苦悩を和らげるものであってほしい。問われるべきは核兵器禁止条約への参加を拒んできた政府である。10秒の拍手に応える術はあるか。来年1月の核兵器禁止条約発効が決まった
▼沖縄戦の語り部118人に県が感謝状を贈った。語り部の活動を通じて「沖縄戦の実相と歴史的教訓を次世代に継承し、恒久平和の構築に尽力した」ことが贈呈の理由である。ここでは感謝状を贈る県や県民の姿勢が問われる
▼体験を語るまでに長い年月を要した語り部がいる。心の痛みに耐えマイクを握る語り部がいる。今なお語れない体験者がいる。それぞれの体験の重さに、私たちは真摯(しんし)に向き合いたい
▼核兵器禁止条約への参加を被爆者が願うように、戦争につながる全てを否定することが沖縄戦体験者の願いである。願いに応えるのが平和行政を担う県、そして県民の役目であろう。感謝状はその誓いでもあると考えたい。