<金口木舌>五輪反対は「反日」か


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 1964年の東京オリンピック開会式の実況中継は、NHKの北出清五郎アナウンサーの名調子で知られる。「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような、素晴らしい秋日和でございます」

▼今回のオリンピックは6都道県の会場で無観客となる。声援と拍手がない祭典は寂しい。せめて晴天には恵まれてほしいと願っていたら、妙な風が吹いてきた。安倍晋三前首相のこと
▼オリンピック反対の声を指して「反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対しています」と雑誌対談で発言した。多くの人が新型コロナ患者の急増を心配しているのに、反日のレッテルを貼りたいのだろうか
▼開会式の日、10歳の前首相は自衛隊機が青空に描いた五輪を見上げた。「あの時の感動はいまでも忘れられません」。同じ日、スタンドから開会式を見た作家の杉本苑子さんは、戦争の記憶と向き合っていた
▼43年10月、同じ場で出征する学徒兵を見送った杉本さんはエッセーにこう記す。「きょうのオリンピックはあの日につながり、あの日もきょうにつながっている。私にはそれが恐ろしい」。学徒出陣の日は雨だった
▼無観客の開会式をテレビで見る国民は何を感じるだろうか。コロナ禍を押して開幕するオリンピック。「反対は反日」との決めつけが許されるなら、そこに明るい未来はない。