<金口木舌>歩きの効用


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 哲学者のカントは毎日同じ時間に散歩をしたという。住民がそれを見て、時計を合わせたという話は有名だ。歩くことが思想家の脳を活性化させたのだろうか

▼歩くとアイデアが浮かんできた体験から散歩の効用を説くのは95歳の英文学者・外山滋比古さん。著書の「元気の源 五体の散歩」は足だけでなく耳や目、手も働かせる“五体の散歩”が元気を呼ぶと説く
▼戦跡を歩く「沖縄戦を知るピースウオーキング」。実行委員会代表の垣花豊順さん(85)から似た話を聞いた。活動は今年10年目。歩き続け「足が丈夫になった」のは思わぬ効用だったそうだ
▼昨年末に沖縄市で開かれた30回の節目のウオーキング。最後尾をしばらく一緒に歩かせてもらった。実際に現場を歩くことで理不尽な死に追い込まれた戦没者らの思いを感じることができる。活動の狙いを語った
▼「歩くことで楽しく、しなやかに粘り強く続けられる」とも教えてくれた。凄惨(せいさん)な歴史に向き合う厳しい活動は歩くことが継続の鍵になっているようだ。学びと散策を組み合わせる工夫がある
▼にぎわう北谷町や那覇新都心を見て、戦中や終戦直後を想像することは難しい。しかし、少しの知識を持って街を歩けば痕跡が見つかる。きらびやかで、整然とした街並みもたくましい復興の証し。歩き、知恵を絞って継承したいその土地土地の記憶である。