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<書評>『俳句の地平を拓く 沖縄から俳句文学の自立を問う』 俳人の壮絶な人生の軌跡


<書評>『俳句の地平を拓く 沖縄から俳句文学の自立を問う』 俳人の壮絶な人生の軌跡 『俳句の地平を拓く 沖縄から俳句文学の自立を問う』野ざらし延男著 コールサック社・2200円
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 著者野ざらし延男が与える二度目の大きな衝撃が本書だ。もちろん一度目は『沖縄俳句総集』(1981年)の出版である。20年の歳月を費やして戦前から戦後までの海外の物故者をも含む作家の作品を網羅した労作であった。

 今回は自らの俳句観を含め、沖縄と俳句を愛した著者の軌跡が語られる。俳句から沖縄を考え、沖縄から俳句を考える眼差(まなざ)しが豊穣(ほうじょう)な世界を生み出していて、圧倒される。

 俳人としての軌跡は、高校2年生のころから始まるようだ。「孤独感に打ちひしがれ」「生きる術(すべ)を失」っていた著者が芭蕉の一句「野ざらしを心に風の沁む身かな」と出会い「オレも俳句に命を賭けよう」と歩み出す。以来「物の本質に迫る俳句の眼と耳を育て」、弱冠22歳で青年俳句サークル「無冠」を結成、その後「天荒俳句会」の結成に至り、めざましい活躍を続けているのは周知のことだ。しかし、その道程は病との戦いを繰り返すなど壮絶な人生の軌跡でもあったのだ。

 著者の業績は「種蒔(ま)く人」としても高く評価されている。沖縄における高校生俳句や「沖縄女子学園」での指導も特筆されるべきことの一つであろう。

 それにしても俳句に賭ける著者の微動だにせぬ思いは強靱(きょうじん)だ。平和が侵害され、戦傷の癒えない「歪(ひず)みの島」を愛し、日本国を「薄汚れたタオルである」と比喩する。これらの熾烈(しれつ)な思いが見事に織りなされる。

 本書は四部IX章から構成され沖縄における俳句の歴史が分かるように配慮されている。第VIII章の同人仲間の句集への解説・解題は秀逸だ。新たな発見と価値を見いだすことができる。

 収載された著者の句を幾つか例示する。「黒人街狂女が曳きずる半死の亀」「コロコロと腹虫の哭く地球の自転」「母は蟹ひらたく水に老いていく」「夕日ぐぐ満月くくく百合よ鳴れ」

 本書は間違いなく著者の大きな業績を示す一冊になる。巻末の資料や鈴木光影の解説も随分と役に立つ。私たちもまた俳句と沖縄を全身で浴びる至福な時間を感得するはずだ。

(大城貞俊・作家)


 のざらし・のぶお 1941年石川市(現・うるま市)山城出身。天荒俳句会代表。元高校教師。編著に「俳句の弦を鳴らす―俳句教育実践録」、天荒合同句集「真実の帆」ほか。